94話 救出作戦、開始
ゴルドフィア王は、犯人との交渉に専念してもらった。
基本的に、テロリストの要求を飲むなんてことはありえない。
例え、ブリジット王女の命が失われたとしても。
でも、そんな最悪の結末を迎えるつもりはない。
ゴルドフィア王には、できる限りの時間を稼いでもらう。
そして、その間に俺達、救出部隊がブリジット王女の居場所を突き止めて、突入する。
基本的な作戦はこんなところだ。
対処の方法は、普通の誘拐事件とそう変わらない。
夜明け前。
俺、シロ王女、パルフェ王女の三人が城を出る。
いざという時の援軍は用意しているものの……
まずは、ブリジット王女の居場所を突き止めないといけない。
それ以前にこちらの動きが敵に悟られたらアウトだ。
なので、最初は少数精鋭で動く。
「では……シロ王女、お願いします」
「うん、任せて!」
狼型の魔物……ハンターウルフに乗ったシロ王女が、笑顔で頷いた。
ちなみに、この魔物はパルフェ王女が調教しているものだ。
完璧に調教しているらしく、シロ王女を背中に乗せることができる。
パルフェ王女も似たようなスタイルだ。
二人はあまり運動が得意でないため、いざという時の機動力を確保する案を考えたら、こんな答えにたどり着いたのだ。
「えっと……うーん」
シロ王女は方位磁針のようなものを取り出した。
手が光り、ふわっと魔力が込められる。
それに反応して針が動いた。
「こっちだよ、ついてきて」
シロ王女の先導で、まだ日が登らない暗い街中を進む。
敵は、基本、夜襲を警戒しているだろう。
でも、夜明けが近くなれば?
やっと夜が終わる……と、いくらか緊張が緩み、付け入る隙が生まれるだろう。
「どうですか、シロ王女」
「うん、大丈夫だよ。急ごしらえだからちょっと心配だったけど、ちゃんとお姉様の魔力反応を感知しているよ」
「さっすが、シロ。そういう発明品を開発させたら、右に出る者はいないねえ」
「えへへ」
「ところで、姉さんの魔力サンプルって、どこから手に入れたの? そうそう、都合よく残っていないと思うんだけど」
「えっと……」
なぜか、シロ王女が気まずい顔に。
「……ぱんつ」
「え?」
「だから、ぱんつだよ」
「……なんでまた、そんなものに?」
「定期的に長時間身につけているものだから、魔力が移りやすいの」
「姉さんの居場所を姉さんのパンツで特定する……これ、どう思う? アルム」
「……ノーコメントです」
俺にどんな答えをしろと?
そんな間の抜けたやり取りで、少しだけ緊張がほぐれた。
「うーん……ここから先は難しいかも。この辺りにいるのは間違いないと思うんだけど、細かいところは……」
やってきたのは、郊外にある移民街だ。
移民街といってもきちんとした街の形にはなっておらず、朽ちた建物が多い。
テントもたくさん並んでいる。
フラウハイム王国は移民を受け入れているが……
誰彼構わず受け入れていたら、国内の治安を乱しかねない。
入国には厳重な審査が必要となる。
ただ、最近は帝国の暴挙の影響で移民が大幅に増えていた。
対処が追いつかず、こうして小規模ではあるものの、移民街ができてしまうほど。
「じゃ、ここからはボクの出番だね。お願い、姉さんの場所を見つけて?」
「オンッ」
パルフェ王女は、自分が乗るハンターウルフの頬を撫でた。
それに応えるように吠える。
ハンターウルフは、その場をくるくる回るようにして匂いを嗅ぐ。
ブリジット王女の居場所を探しているのだろう。
ややあって、反応があった。
今度はパルフェ王女を先頭に進む。
移民街をまっすぐ突き進み……
さらに、その奥にある西門の近くにやってくる。
「オンッ」
パルフェ王女のハンターウルフは、西門を警備する小規模な砦を見て、小さく吠えた。
「あそこに姉さんがいるのかい?」
「オフゥ」
「……うん。どうやら間違いないみたいだ」
パルフェ王女は、よしよしとハンターウルフを撫でて、餌をあげていた。
ああやって調教しているのだろう。
「なんで、砦にお姉様がいるのかな……?」
「たぶん、砦の騎士達は買収をされているのでしょう」
「えっ、そんなこと……」
「あるいは、無理矢理に言うことを聞かされているか。どちらにしても、砦にいる者は全て敵と考えた方がいいでしょう」
「そんな……」
シロ王女は悲しそうに眉をたわめた。
どのような形であれ、自国の騎士に裏切られた。
優しい人だから、そのことをとても傷ついているのだろう。
「あとは、俺の出番ですね」
砦にブリジット王女が囚われていることを、この目で確認する。
発煙筒を炊いて、騎士団に連絡。
そして俺は、可能ならブリジット王女の救出も並行して行う。
相手は、国内の有力貴族。
そして、おそらくは暁が絡んでいる。
大変な仕事になるだろう。
いざという時は、この身を盾にしてでも……
「お兄ちゃん」
「アルム」
シロ王女とパルフェ王女が抱きついてきた。
「えっと……?」
「絶対に無理はしたらダメだからね? 怪我もだめ? でないと、シロ、泣いちゃうから」
「君は、とてもおもしろくて貴重なサンプルだから。絶対に無事に戻ってくること」
「……わかりました」
二人には俺の心が見えているのかもしれない。
苦笑しつつ、頷いた。
そうだ。
ブリジット王女だけではなくて、俺自身も助ける。
二人の優しい王女に誓い、改めて覚悟を決めた。




