表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/326

93話 傭兵の矜持

「ねえ……雇い主を変えることはできないかな?」

「ふーん……それ、どういう意味?」


 セラフィーが話に食いついた。

 よし、と内心でガッツポーズをしつつ、しかしそれは表に出さず、ブリジットは言葉を続ける。


「たぶん……あなた達の今の主は、ユーバード家。ナカド・ユーバード……じゃないかな?」

「おぉ!?」


 セラフィーが派手に反応した。

 隠し事のできない子だなあ、と思うブリジットだけど、不思議と彼女のことは好ましく思う。

 素直な反応がそう思わせるのかもしれない。


「なっ、ななな、なんのことかなー? 私、しらねーし」

「当たりだね」

「だから、知らないって言ってるだろ!」

「そういう反応が答えを示しているんだよ」

「うぐ」

「諦めろ、セラフィー。王女の方が口が上手い」

「がっくり……」


 子供のような人だ。

 そんなことを思いつつ、ブリジット王女はさらに話を重ねる。


「あなた達、暁は、ナカド・ユーバードと契約を結んだ。彼の思想理念に共感したからじゃなくて、たぶん、普通にお金だけの関係」

「正解だ」

「なら、雇い主を変えてもいいんじゃないかな? 例えば、私とか」

「裏切れと?」

「私は王女だから、ナカド以上のお金を出せるよ」

「保証は?」

「ブリジット・スタイン・フラウハイムの名に誓い、あなた達を騙すようなことはしません」


 己の名前に誓うということは、国に誓うということ。

 その約束を違えることは絶対にない。


 それを理解しているのだろう。

 カインは考えるように、顎を指先で撫でる。


「それは……」

「ならさ、ならさ。三倍、出せる?」


 カインの言葉を遮るように、セラフィーがそう問いかけてきた。


「出すよ」

「おっ、即答じゃん。でも、本気? こういうことで嘘をついたら、私ら、めちゃくちゃ容赦しないよ?」

「わかっているよ。私は本気。あなた達の契約値は知らないけど、その三倍を出すって約束する。これも、王家の名を口にした方がいい」

「へぇ……いいね。うん、すごくいいね! 親父、私、この王女様気に入ったかも。乗り換えようぜ!」

「バカを言うな」

「いてぇ!?」


 カインに小突かれて……わりと本気で。

 そして、セラフィーは悲鳴をあげた。


「魅力的な話ではある」

「でもよ、三倍だぜ。三倍。それに嘘は吐いてなさそうなんだよな」

「そうだな、嘘は吐いていないだろう」

「なら……」

「だからといって、ほいほいと契約を覆して、乗り換えられるものか。お前には、傭兵の矜持というものを、もう一度、叩き込まないといけないようだな」

「げぇ……」


 セラフィーは苦いものを食べたような、とても渋い表情を作る。

 一方で、カインは眉一つ動かしていない。


 その状態でブリジットを見る。


「正直な話をすると、あんたの提案は魅力的だ。裏切られることもないのだろう」

「なら……」

「だがしかし、我々は傭兵だ。金を大事にしているが、それと同じくらい、信頼というものも大事にしている。それを失えば、仕事はなくなり、使い潰されるだけだからな」

「それは……」

「我々の仕事は、誰かの剣となり戦うこと。ろくでもない仕事だ。なればこそ、最低限の矜持を守りたい。信頼を交わす。それをなくしてしまえば、ただの獣でしかない。わかってもらえるかな?」

「うん……そうだね。私、とても無粋なことをしたみたい。ごめんなさい」

「……」

「どうして驚いているの?」

「いや、なに。まさか、素直に謝罪されるとは思っていなかったからな。心を動かされたセラフィーの気持ちが少しだけわかった」

「そっか、ありがと」


 暁の二人は敵。

 味方にすることはできない。


 それでも、ブリジットはこの一時の会話を楽しいと思った。


 ついでに……


(今回は断られたけど、事件を解決した後なら、契約できるかもしれないよね?)


 そんなしたたかなことを考えていた。


 わりと絶望的な状況ではあるが、諦めてなんていない。

 欠片も落ち込んでいない。


 なぜか?


 答えは一つ。

 とても単純な理由。


(アルム君……信じているよ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://ncode.syosetu.com/n8290ko/
― 新着の感想 ―
[一言] 事件が解決した後なら確かに雇えるだろう だが、それはアルムくんが暁を皆殺しにしなかったらの場合だろ? はたして手加減できるのか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ