86話 第一歩
帝国の現体制を崩す。
その第一歩がついに動いた。
まずは、ライラが率いる反体制派への物資の援助だ。
フラウハイム王国とサンライズ王国による共同作戦。
物資を援助するだけではあるが、わりと危ない。
もしも事が露見したら、帝国との開戦は回避できない。
そのため、二重三重の偽装工作をして挑む必要があった。
故に時間がかかる。
しかし、ここで焦るわけにはいかない。
現体制を崩すための策は、これが第一歩で、この後にたくさんの事を成し遂げていかなければならない。
最初でつまづくわけにはいかないのだ。
――――――――――
「……と、いうわけでして。現状、物資の援助は問題なく行われています。帝国に感づかれている可能性も、ほぼほぼないかと」
「うーん……その、ほぼほぼ、っていうのは? もしかしたら感づかれている可能性もある、っていうこと?」
ブリジット王女の執務室で現状の報告をする。
「はい。ただ、それはあくまでも可能性の話です」
「どういうことかな?」
「この世に『絶対』はありませんので。もしかしたら、帝国が感づいているかもしれない。もしかしたら、あえて泳がされているのかもしれない。そういった可能性が絶対にないとは言い切れないので、ほぼほぼ、という言葉に」
「言葉遊びのようなものだよね、それ。でも、アルム君がそう言うってことは、今のところは安心していい、ってことだよね」
「はい、問題はないかと」
「うん、了解。油断はしたらいけないけど、今の安心を維持できるように、引き続き慎重にがんばって」
「了解です」
ブリジット王女の言葉に、今まで以上に気が引き締まる。
その後、いつも通り仕事に励み、気がつけば夜になっていた。
キリのいいところで仕事を終えて、挨拶をして、ブリジット王女の執務室を後にする。
「さてと……なにか食べるか」
そろそろ空腹を覚えてきた。
執事としての訓練を積んでいるため、一週間は飲まず食わずでも問題はない。
ただ、今はそれをしなければいけない極限状態ではないので、わざわざ食事を我慢する必要はない。
食堂に足を向けて、
「アニキ」
途中、ヒカリに呼び止められた。
「ヒカリか。その服、気に入ったみたいだな」
「えぁ!? いや、あの、その……き、気に入っているから着てるわけじゃなくて、さっきまで城下町で情報収集をしていたから、普通の格好をしているだけで……あ、いや!? 気に入っていないとか、そういうことはないっす!」
慌てて弁明するところを見ると、本当に気に入っているみたいだ。
なにより。
「そ、それよりも、ちょっと報告があるっす」
「……場所を変えた方がいいか?」
「はい」
ヒカリの真剣な顔につられるように、俺も気持ちを切り替えた。
食堂ではなくて、俺の部屋に移動する。
「ちょっと王国内で不穏な動きがあるっす」
「不穏な動き?」
「はい。アニキは、『暁』を知っていますか?」
「確か……大陸最強と呼ばれている傭兵団だよな? 北方を中心に活動をしてて、戦では負け知らず。雇用額は他と比べ物にならないほど高いけれど、それに見合うだけの働きを必ずしてくれるという」
「その暁が、王国内の貴族に雇われたみたいっす」
「なんだって?」
ヒカリ曰く……
複数の貴族が徒党を組んだ。
そして、共同出資という形で暁を迎え入れた。
事はとても慎重に進められていたらしいが、さすがに暁が動くと完全に隠すことはできず、ヒカリの情報網に引っかかったらしい。
「その貴族は?」
「ナカド・ユーバードです」
「あいつか……」
名前を聞いて、ついつい顔をしかめてしまう。
フラウハイム王国は、大陸で一番の発展を遂げて、優れた者達が集まる。
故に、全ての国の頂点に立たなければいけない。
他の国を力づくでも併合して従わせるべきだ。
……などと、言葉は悪いが、頭おかしいんじゃないか? と思うようなことを堂々と口にしている。
好意的に見れば、愛国心の現れ。
しかし、普通に見て、野心にあふれた獣のような人物だ。
事実、ユーバード家が率いる派閥は黒い噂が絶えない。
ブリジット王女の悩みの種だ。
「連中が動いていると?」
「はい。ただ、目的はわからなくて……すまないっす」
「いいさ。ユーバード家が動いていることを掴んでくれただけでも、かなりありがたい」
二つの家がやらかしてくれれば、それを口実に取り潰すことができる。
ある意味でチャンスだ。
ただ……
「暁……か」
最強の傭兵団。
それだけが気がかりで、嫌な予感がした。




