85話 きゃわわわ
今日は、ブリジット王女とヒカリと一緒に城下町に出た。
ブリジット王女は、視察ではなくてお忍びモードだ。
なぜ、この三人で城下町にやってきたのか?
答えは簡単。
「さあ、ヒカリちゃん。どんな服がいい?」
「えっと、えっと……」
ヒカリの服を買いに来たのだ。
暗殺者ではなくて、一人の女の子としてやり直すことになったヒカリではあるが……
殺しのことだけを考えて生きてきたため、色々と常識が足りない。
その中の一つに、服をまったく持っていないという問題があった。
黒装束だけ。
他はなにもなし。
下着もなし。
さすがにそれはいけないと、買いに行くことにしたのだ。
「わぁ……こんなにたくさんの服が」
服屋にやってきたのだけど、ヒカリは驚いてばかりで服を選ぼうとしない。
薄々、わかっていた。
この子は常識がない。
だから、どういう服を買えばいいか、そんな単純なこともわからない。
服の好みという、年頃の女の子であれば当たり前にある感性も……ない。
なので、ブリジット王女に見立てをお願いすることにした。
さすがに、女性の服の見立ては執事の仕事の範囲外だ。
「ヒカリちゃん、気になる服はある?」
「えっと……ご、ごめんなさいです。わからないであります……」
「そっか。謝らなくていいよ。じゃあ、まずは適当に見ていこうか」
店内を三人で回る。
シャツ、ブラウス、スカート、ズボン、ワンピース……色々と見る。
「どうかな?」
「あうあうあう……ど、どれも素敵な服で、とてもボクに似合わないと思うのでありますが」
「そんなことないよ。んー……ほら。このワンピースなんてどうかな?」
ブリジット王女は白のワンピースを手に取り、服の上からヒカリにあててみせる。
「うん、よく似合うよ」
「そ、そそそ、そのようなことは……!?」
うーん。
任務の時は、ヒカリはとんでもなく凛々しく、刃物のように鋭い雰囲気をまとい、頼りになるのだけど……
日常生活となると、途端にぽんこつになるな。
日常を知らないせい、か。
任務ばかりじゃなくて、こちらの矯正も進めないとダメだな。
「えっと……こっちのスカートもいい感じ。あと、ニットとブラウスも。んー、ワンピも、もうニ、三着持っていこうかな?」
「あ、あの……?」
「じゃあ、試着室に行こうか。こういうのは、ちゃんと着てみないとわからないからね」
「いや、えっと、その!? あ、アニキ!」
ヒカリがこちらを振り返り、助けを求めるような目を向けてきた。
それに対して、俺は笑みを返す。
「がんばってこい」
「アニキ!?」
「さあ、いくよ。私が、ばっちり可愛くコーデしてあげる♪」
「ひぁあああああーーー!?」
なんとなく、ブリジット王女がクモに見えた。
――――――――――
30分後。
「ど……ど、どうっす、か……?」
試着室からヒカリが出てきた。
基本は、シンプルな白のワンピースだ。
特に飾り気はない。
もちろん、それだけでは寂しいので、パーカーがプラスされていた。
パーカーを組み合わせることでスタイリッシュさが増していて、可愛いだけではなくて、かっこいいと思うようになる。
「……」
「うぅ、アニキが黙っている……やっぱり、ボクにはこんな格好は……」
「あ、いや。すまない。すごく似合っているから、驚いて、ついつい黙ってしまった」
「ふぇ!?」
「うん、すごくいいと思うぞ。可愛いし、綺麗だし。その両方の良いところ取り?」
「ふわわわ!?」
「あぁ、ヘアピンもつけているんだな。よく似合っていると思う」
「あぅ!?」
なぜかヒカリが赤くなっていく。
素直な感想を伝えているだけなのだけど、どうしたのだろう?
「……」
そういえば、ブリジット王女も無言だ。
このコーデは彼女が決めたものだから、こういう風になると予想はしていたはずなのだけど、なぜ驚いているのだろう?
「きゃわわわ!」
ブリジット王女が壊れた。
「あーん、ヒカリちゃん、可愛い!」
「はぅ!?」
ぎゅっと抱きしめられて、ヒカリは小動物のように丸くなる。
そんなヒカリをさらに抱きしめて。
頭を撫でて。
頬をスリスリして。
ブリジット王女はやりたい放題だ。
「はぁあああ、癒やされる。ヒカリちゃん、可愛い。マジ天使」
「なにを言っているんですか?」
「可愛いは正義なんだよ!」
時々、ブリジット王女はおかしくなるんだよな。
まあ、気さくなところは変わらないから、そこもアリではあるが。
「あのう……アニキ」
「うん?」
「ボクは、いつまでこうしていれば……?」
「ブリジット王女が飽きるまでだな」
「そ、それはどれくらいで?」
「さあ? ただ、最低でも数時間はかかると思うぞ」
「そ、そんなぁ……」
がくりとうなだれるヒカリ。
そんな彼女を抱きしめるブリジット王女。
「……まあ、たまにはこんな休日もいいか」




