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80話 自分のためでいい

 城に戻り、ブリジット王女に見つかり、大騒ぎになって……

 結局、夜まで治療を受けることになってしまった。


 この程度の傷、放っておけばそのうち治るのだけど……

 ブリジット王女もシロ王女も心配性だ。


 でも、その優しさは素直に嬉しい。


「パルフェ王女」

「うぇ!?」


 小屋に戻ると、なぜかものすごく驚かれた。


 というか、明かりを点けていない。

 こんな真っ暗な部屋でなにをしていたのだろう?


「明かりを点けますよ?」

「待って!」

「……なにか問題が?」

「ボク、今、人に見せられる顔をしていないから……」

「もしかして寝ていたんですか?」

「そうじゃないよ。そうじゃなくて、それだけじゃなくて……キミに合わせる顔がない」


 泣き出してしまいそうな声だった。


 薄暗い部屋の中。

 端の方で、膝を抱えて丸くなっているパルフェ王女が見えた。


「ボクの研究のせいでキミを傷つけてしまった……ごめん。本当にごめんなさい……」

「謝らないでください。あれは事故のようなもので……」

「違う、違うんだ……ボクが未熟だったから。未熟なのに、魔物の研究なんてして、結果、人を傷つけて……全部、ボクのせいだ。ボクが未熟だから悪いんだよ。魔物の研究をしていたから悪いんだよ……」

「それは違います」


 パルフェ王女が責任を感じてしまうのは、仕方ないと思う。

 魔物の暴走を失敗ではない、と擁護することはできない。


 ただ……


「今までの自分を否定しないでください」

「え……?」

「今回の事故は、失敗です。それは否定できません。しかし、今までの自分の行いを、経験を、積み重ねてきたものを否定しないてください。それは、とても悲しいことです」

「それは……」

「今までのパルフェ王女があって、今のパルフェ王女があります。自分で自分を否定するなんて、寂しいじゃないですか。失敗はしてしまいましたが、でも、それを糧にすることはできます。ここで諦めないでください」

「……」


 パルフェ王女が立ち上がる。

 ふらふらとしつつも、こちらにやってきた。


 そっと手を伸ばして……

 俺の頬に触れる。


「キミは不思議な人だね。さっきまでの苦しい気持ちが、すぐに消えたよ」

「なによりです」

「うそ。本当は消えてない。むしろ、キミを傷つけたことが苦しくて、今すぐにでも消えてしまいたいくらいだね」

「それは……」

「でも、逃げないよ」


 そう言うパルフェ王女は、とても強い目をしていた。


「ここで折れて、研究を止めたりしたら……それこそ、キミに申しわけないからね。というか、キミのせいになってしまうかもしれない。それはダメだ」

「はい」

「がんばりたい、って思うけど……うーん」

「どうかされました?」

「がんばろう、っていう気持ちはあるんだ。ひどく後悔した。悩んだ。でも、ここで止まったらいけないってことを教えられたからね。ただ……」


 パルフェ王女は不安に瞳を揺らす。


「今後、ボクはなんのために研究をすればいいのかな? ……って」

「どういう意味ですか?」

「今までは、ただ単に楽しいから研究をしていたんだ。ボクが楽しむことができて、それで、国のためにもなるかもしれない。ならいいよね、っていう気軽な感じで。でも、それじゃダメだ」


 思っていた以上に、パルフェ王女の研究は影響が大きい。

 そして、失敗した時に出してしまう被害も大きい。


「もっともっと真剣に考えないと、って思ったんだけど……どうしていいのやら。今、思いついたばかりだから、答えが出てこないのは当然だけどね」

「それも、今までのままでいいのではありませんか?」

「え?」

「やりたいことをやる。それが、一番の原動力だと思います。そこに使命感や責任感を足してしまうと、苦行でしかなくなり、なにも進まなくなってしまうかと。断言できるわけではありませんが」

「しかし……それじゃあ、また事故が起きるかもしれないじゃないか。そうなったら、ボクは……」

「そうならないように、他の人を頼りましょう」

「……あ……」


 その発想はなかった、という感じで、パルフェ王女が目を大きくして驚いた。


「一人で抱え込むのは止めましょう。ブリジット王女がいます、シロ王女がいます。他にも、たくさんの優しい人達がいます。そんな人達に協力を求めていることで、色々なことが改善されていくと思います。いえ。改善されていくはずです」

「……」

「もちろん、自分も協力します。また実験に付き合います。なので……」


 失礼かと思いつつ、パルフェ王女の手を取る。

 しっかりと握り、こちらの熱を伝える。


「がんばってください。自分は、なにがあろうと応援しています」

「……キミは……」

「パルフェ王女らしく。あなたが望むまま……成し遂げてください」

「……あは」


 ややあって、パルフェ王女はくすりと笑う。

 その笑顔は、とても晴れやかなものだった。

 暗い部屋でもハッキリと見えるほど、澄んだ明るいものだった。


「キミは変わっているね。ますます興味が湧いてきたよ」

「自分は、普通の執事ですが……」

「キミが普通だとしたら、世の中、おかしくなってしまうよ」


 むう。

 おかしい。

 なぜ、出会って間もないパルフェ王女にまで周囲と同じことを言われるんだ?


「うん、ボクはがんばるよ。研究に失敗はつきものだ、っていうことを忘れていた。それに……周囲に助けを求めることも忘れていた。そのことをしっかりと念頭に置いて、またがんばるよ」

「はい、その意気です」

「ただ……」


 パルフェ王女がぐいっと距離をつめてきて、こちらの顔を覗き込んでくる。


「キミのことも、もっともっと色々と研究したいな」

「えっと……自分にできる範囲でしたら」

「そっか。じゃあ、まずは名前で呼んでもいいかな?」

「もちろん、問題ありませんが……それは研究と関係あるのですか?」

「あるよ。別の、ちょっとした研究にね♪」


 パルフェ王女はいたずらっぽく笑う。

 はて?

 いったい、なにを考えているのだろう?


「これからもよろしく、アルム♪」

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