79話 失敗と暴走
「ふむふむ」
パルフェ王女の一時的な専属となり、2日目。
今日は、彼女と一緒に魔物の検査を行っていた。
検査の対象は、ライガー。
狼型の魔物で、比較的おとなしい。
こちらが敵意を見せない限りは襲いかかってくることはない。
ただ例外はあり、繁殖期は獰猛になっていて、巣や番、子を守るために好戦的になる。
「なるほど、こうなるか。ふむふむ、実に興味深い」
パルフェ王女は熱心にライガーを検査する。
その姿を少し離れたところで、シロ王女と一緒に見る。
「パルフェお姉様、いつも通りだね」
「そうなんですか?」
「うん。いつも魔物と一緒に遊んでて、うへへへー、っていう顔をしているよ」
その表現はどうかと。
いや、まあ。
あながち外れていないのだけど。
「でも、パルフェお姉様の研究は、シロは好きだな」
「少し意外ですね」
「だってだって、シロの発明品にも影響があるからね。パルフェお姉様の研究って、けっこう意外な結果に繋がることが多いから。その成果から、色々と思いつくことがあるんだよ?」
「なるほど」
研究者と開発者。
良い関係を築いているようだ。
「あれ?」
ふと、パルフェ王女の怪訝そうな声が聞こえてきた。
そちらに視線を戻すと、さきほどまでおとなしかったライガーが唸っている。
毛も逆立てて、明らかに怒りを示していた。
「おいおい、どうしたんだい? ボクは敵じゃないよ? キミは頭がいい。そんなことはわかっているだろう?」
「グルルルッ……!」
「パルフェ王女!」
「あー、大丈夫大丈夫。たまに、この子達は機嫌が悪くなるんだ。そういう時は餌をあげれば、すぐに……」
「ガァッ!」
パルフェ王女の予想を裏切り、ライガーは襲いかかってきた。
ライガーはその牙をパルフェ王女に突き立てようとするが、それは許さない。
この展開を予想していたからこそ、すぐ動くことができた。
パルフェ王女の前に移動して、彼女を背中にかばう。
同時に蹴撃でライガーを迎撃した。
さらに追撃を……
「待って、殺さないで!」
「っ」
一瞬、迷う。
ライガーはパルフェ王女に牙を剥いた。
それを許すことはできない。
しかし、それならヒカリは?
彼女とはわかり合うことができた。
魔物の研究をするパルフェ王女なら、ライガーともわかり合うことも可能なのでは?
そんなことを考えてしまい、
「しま……!?」
対応が遅れてしまう。
すぐに体勢を立て直したライガーが飛びかかってきた。
狙いは俺。
的確に急所を見抜いて、首に牙を突き立てようとしている。
「させるか!」
左腕を前に。
首の代わりにそちらを噛みつかせて、攻撃を防ぐ。
痛みは無視。
自由に動く右手でライガーの顎をかするように殴る。
この辺りの弱点は人間もライガーも同じだ。
ライガーは脳震盪を起こして、ふらふらとよろめいた後、倒れて気絶した。
「土よ、我が意に従いその力を示せ。アースクリエイト!」
すぐに魔法でライガーを拘束した。
「ふぅ……」
「お兄ちゃん、大丈夫!?」
「それは俺の台詞です。シロ王女、パルフェ王女、問題ありませんか?」
「うん、シロは大丈夫だけど、お兄ちゃんが……」
「……あ……」
ライガーに噛みつかれたことで、左腕から血が流れていた。
血に濡れて、黒の執事服が赤に染まる。
それを見て、シロ王女は泣きそうになって。
パルフェ王女は、顔を青くして立ち尽くしていた。
「大した怪我ではありません。適当につばでも舐めておけば……」
「よくないよ! ちゃんと治療しないと!」
むう?
帝国にいた頃は、この程度の怪我で治療なんて、と怒られていたのだが……
そうか、そういうものなのか。
「では、城へ戻りますね」
「シロも一緒に行く!」
「ありがとうございます。パルフェ王女は、今日は小屋に戻っていてもらえますか? 治療が終わった後、また戻ります」
「あ……う、うん」
ぎこちなく頷くパルフェ王女は、まだ顔を青くして、動揺を消せない様子だった。




