76話 がさつ、ずぼら
「アルム君、ほんとーーーーーにごめんなさいっ!」
「いえ。パルフェ王女とは出会ったばかりですが、なんとなく、彼女の性格は把握しました。こうする以外に道はないかと」
「うぅ、理解がありすぎて優しすぎて、罪悪感が半端ないよ……」
「あまり気にしないでください。ブリジット王女は、俺をまだ必要としてくれているのでしょう?」
「もちろん! 世界で一番、アルム君のことがだい……だ、大事にしているつもり!」
「その言葉で十分です。国のため、あなたのため。がんばることにします」
「ごめんだけど、よろしくね」
……なんてやりとりを交わして、ブリジット王女は小屋を後にした。
俺は、パルフェ王女と二人きりになる。
「ふっふっふ。とんでもない噂ばかりを聞くけど、それはどこまで本当なのか? 本当だとしたら、どうやってあんな偉業を成し遂げているのか? 徹底的に調べさせてもらうよ」
「……解剖はしませんよね?」
「するわけないじゃん。貴重なサンプルなんだよ? 解剖で自分から失うようなことはしないよ」
その気になれば。
あるいは、気が変わったらする、と言っているような気がした。
あまり安心できない台詞だ。
「こうなった以上、研究に協力はしますが……」
「なに?」
「その前に、執事としての仕事をさせていただけませんか?」
小屋をぐるりと見回した。
ぐっちゃぐちゃだ。
あちらこちらに物が積み重ねられていて、ところどころが崩れていて、散乱してて……
見るに堪えない。
俺の言いたいことを理解した様子で、パルフェ王女は、やや気まずそうな顔に。
「やー……これでも片付けているんだよ? それに、一見散らかっているように見えるけど、どこになにがあるか把握してて、これが最善の配置なんだよ」
「でしたら、もっと最善になるように、さらに効率のいい配置にしましょう」
「う……」
「片付けますよ。いいですね?」
「いや、でも……」
「いいですね?」
「……あい」
根負けした様子でパルフェ王女は小さく頷いた。
よし。
こういう仕事は久しぶりだ。
執事の腕の見せ所だから、がんばろう。
――――――――――
「あ、待って。それは大事なもので……」
「どう見てもゴミです。捨てますね」
「そこにあるものは、今夜、食べようと思っていて……」
「常温放置したものを食べるなんてありえません。捨てますね」
「そのシーツはお気に入りで……」
「だからといって、カビが生えているので無理です。捨てますね」
部屋の掃除を始めると、次から次にゴミが出てきた。
どうやら、パルフェ王女は捨てられない人のようだ。
「さて、次は……」
床に落ちているものを拾い上げる。
パンツだった。
「……」
「……」
沈黙。
「どうして、このようなものまで床の上に放置しているのですか……?」
「やー……そこにあると便利じゃん? 着替える時とか、わざわざタンスまで行かなくていいし」
「履き回しているとか、本当にありえないのですが……はぁ」
下着を放置して。
それを見られて、パルフェ王女はてへへ、という感じで、あまり恥じらいがない。
なんていうか、まあ……
不敬ではあるのだけど、生活力が皆無のダメな人だなあ、と思ってしまうのだった。
その後も掃除を続けて。
いらないものを強制的に捨てて。
3時間ほどして、ようやく小屋が綺麗になった。
「ふぅ、こんなところですね」
「うわ、すごい。久しぶりに床が見えたよ」
「どれくらい汚していたんですか……」
「んー……小屋を与えてもらってからずっとだから、10年くらい?」
頭が痛い。
「やー、ありがとね。こうして綺麗になったところを見ると、掃除をしてもらってよかった、って思うよ」
「そう思うのなら、もう汚さないでください」
「それは無理」
即答されてしまう。
この人、どれだけ自分の生活能力に自信がないんだ?
「じゃあ、さっそく研究を……」
「その前に。そろそろ日が暮れますが、いつも食事はどうされているのですか?」
「ごはん? んー……それを適当に?」
パルフェ王女が指差したのは、非常用の携帯食だった。
騎士が食べるもので、決して王女が食べるものではない。
「……自分が食事を作ります」
「えー。そんなのいいから、研究を……」
「作りますよ?」
「あ、はい」
強く言うと、パルフェ王女はおとなしく引き下がってくれた。
悪い人ではないのだけど……
どうしてこう、がさつなのか。
ブリジット王女やシロ王女を見習ってほしい。
「やれやれ」
「んー、なんでため息をつかれているのかな、ボク」
察してください。




