75話 第二王女
パルフェ・スタイン・フラウハイム。
ブリジット王女の二つ下の妹。
そして、第二王女。
ブリジット王女と同じ、プラチナブロンドの髪は宝石のように輝いている。
しかし、まったく手入れをしていないらしく、ぼさぼさだ。
枝毛もたっぷり。
それでも、ついつい視線を誘われるほどに綺麗だ。
言うなれば、天然の原石。
加工こそされていないものの、それでも、十分に美しいといえる。
やや大きいメガネ。
それと、白衣が特徴的な人だ。
綺麗な顔よりもそちらに意識が向けられてしまう。
「というわけで、ボクがパルフェ・スタイン・フラウハイムだ。ブリジット姉さんの妹で、シロの姉かな」
「はじめまして。いくらか前に、ブリジット王女の専属となった、アルム・アステニアと申します」
「うんうん、キミがアルム君だね? 噂は聞いているよ。なんでも、ブリジット姉さんをたらしこんで、シロもたらしこんで、ついでに伝説の暗殺者も従えたとか」
色々と誤解がありすぎて、どこから訂正していいものか迷う。
「えへへ」
ブリジット王女、嬉しそうにしてないで訂正してください。
でないと、変な噂が広まることになりますよ?
「パルフェ王女は、このようなところでなにをされているのですか?」
「ボク? ボクは、魔物の研究をしているんだ」
「魔物の?」
「うん。動物に似て、でも、まったく異なる生物。基本、凶暴で、他の生物に対して強い敵意を見せる。それだけじゃなくて、仲間同士で争うことも珍しくない。個体は様々。種類も多々。その全容を解き明かした者は、まだいない。知っているかい? 魔物の生態について解明されているところは、全体の10パーセントにも満たない、って言われているんだよ? あぁ、なんて不思議な生き物なんだろう。その謎。その不思議。ボクが解明したい。その全てを知りたい。なぜなら、魔物は謎に包まれていて……」
「はいはーい、ストップ」
パルフェ王女が延々と語り始めたところで、ブリジット王女が止めた。
よかった。
もしかしたら、あのままずっと話していたかもしれない。
「今日は、パルフェの話を聞きにきたわけじゃないの。お願いがあるの」
「お願い? ボクに?」
パルフェ王女は小首を傾げた。
同時に、ちょっと迷惑そうな顔になる。
たぶん、彼女はシロ王女と同じタイプの、研究者気質なのだろう。
余計な事に時間を割かれたくない。
とにかく、ひたすら、問答無用に研究だけをしていたい。
だからこそ、城の端に引きこもっている……と、考えた。
「パルフェの持つ知識と技術を貸してほしいの」
「具体的には?」
「今度、すごく大事な策が実行されると思うの。その時に、策をスムーズに進めるために、調教された魔物を貸してほしい」
調教!?
魔物を手なづけたというのか……
それは、本当にすごいな。
主の会話の最中だというのに、驚きのあまり、ついつい声をあげてしまいそうになった。
「やだ」
パルフェ王女の返事はそっけないものだった。
「ブリジット姉さんは、ちょくちょくボクのところに来ているから、知っているよね? 魔物を調教するのは、本当に大変なことなんだよ? 今まで失敗だらけで、まともな成功例はほとんどない。最近はそこそこ軌道に乗ってきたけど、まだまだ。なにをするかわからないけど、貴重な成功体を失うような真似はしたくないね」
「そこをなんとか! パルフェの魔物がいれば、たぶん、すごく役に立つと思うの。ね、アルム君?」
「えっと……そうですね」
少し考えて、頷いた。
魔物を兵力として使用できる。
そんなことが可能なら、策の幅が大きく広がるだろう。
いざという時の対処も容易になる。
「お願い! 誇張表現抜きで、王国の未来に関わる話なの!」
「王国の?」
「えっとね……」
ブリジット王女は、帝国に関わる一連の事件の話をした。
それから、現体制を崩す策を進めていることも説明する。
「ふむ」
パルフェ王女は悩ましげな顔に。
見た感じ、彼女は好きなことを好きなだけしていたい、というタイプの人間だ。
その目的は魔物の研究。
他のことはどうでもいい。
ただ……
なんだかんだ、王族でもある。
その使命までは捨てていない様子だ。
「……ボクの研究の難しさは、ブリジット姉さんは理解してくれているよね? 何度も失敗を繰り返して、ようやく、いくらかの個体を調教することができた」
「うん、それはわかっているつもり。その上で、お願いしているの」
「はあ……そこまで言われたら断れないじゃないか。なんだかんだ、ブリジット姉さんには色々と世話になっているからね」
「ほんと!?」
「ただし!」
パルフェ王女がニヤリと笑う。
「条件があるよ」
「条件?」
にひひ、と笑うパルフェ王女がこちらを見た。
「そこの執事を3日間、ボクに貸して?」
「えっ」
「噂を聞いて、前々から気になっていたんだよねー。色々と調べたい! そうすれば、貸した魔物が失われたとしても、それを補って有り余る成果が得られると思うんだよね」
待て。
シロ王女も似たようなことを言っていたが、わりと冗談っぽいところがあった。
でも、パルフェ王女は本気に聞こえてくる。
ブリジット王女もそれを理解しているはず。
簡単に頷くわけが……
「うん、いいよ」
ブリジット王女!?
「よし、取引成立だね! アルム。今から3日間、キミはボクのものだ!」
「えぇ……」
ブリジット王女を見ると、ごめんね、という感じで両手を合わせていた。
これ以外に説得する方法がないと、パルフェ王女と親しいからこそわかっているのだろう。
はあ……
仕方ない。
これも国のためだ。
おとなしく従うとしよう。
「かしこまりました。これから3日間、よろしくお願いいたします」
「うん、よろしくー♪」
こうして俺は、一時限定でパルフェ王女に仕えることになった。




