70話 秘密のデート
よく晴れた穏やかな日。
「んーっ、気持ちのいい天気だね」
こっそりと、お忍びで街を視察するブリジット王女。
俺は護衛として彼女の隣を歩いていた。
「今日は、なにか目的が?」
「ううん、ないよ。この前と同じような感じで、街を見て回るつもりだけど……んー、実のところ、お仕事っていう感じじゃないんだよね」
「と、いうと?」
「ちょっとした息抜き」
「なるほど」
ここ最近、色々な準備で忙殺されていたからな。
確かに休息は必要だ。
「もちろん、なにか問題があれば対処するけどね。そうでなければ、今日はのんびりデートを楽しみたいかな」
「デート?」
「うん。アルム君とデート♪」
「へ?」
思い切り間の抜けた声がこぼれてしまった。
そんな俺の顔を見て、ブリジット王女がくすくすと笑う。
「ふふ。どうしたの、そんなに驚いて」
「いえ、ですが今……」
「年頃の男の子と女の子が一緒に街を歩く。これをデートと言わず、なんと言うのかな?」
「しかし、そのような恐れ多い話は……」
「私がアルム君とデートをしたいんだよ。だから、一緒にデートしよう? それとも、私じゃダメ?」
「そんなことは!」
「なら、よし!」
ブリジット王女がにっこりと笑う。
そんな彼女の笑みは向日葵のように元気で、そして、明るく輝いていた。
――――――――――
幸いというか事件に遭遇することはなくて、俺とブリジット王女は……デートを楽しんでいた。
いや。
これをデートと認めていいのだろうか?
それは、あまりに不敬というか、恐れ多い話ではないか?
ただの護衛と認識して、必要以上の感情を抱かない方がいいのではないか?
「アルム君」
「はい、なんでしょう?」
「なにかめんどーなことを考えていない?」
「いえ、そのようなことは」
「怪しい」
おかしい。
なぜバレたんだ?
「まあいいや。それよりも、あそこのお店に行こう?」
ブリジット王女に連れられて、シックな雰囲気のカフェに入る。
落ち着いた雰囲気がとてもいい店だ。
常連さんが多いらしく、店内はたくさんの人で賑わっている。
「んー……私はオレンジジュースとパンケーキかな。アルム君は?」
「自分は、アイスティーで」
「オッケー。店員さーん」
ブリジット王女は慣れた様子で注文をした。
さては何度も来ているな?
ほどなくして料理やドリンクが運ばれてきた。
見ただけでわかる、ふわふわのパンケーキが三層。
それを覆い隠すほどの大量の生クリーム。
色とりどりのフルーツが散りばめられていて、粉砂糖で雪化粧をする。
最後にはちみつを垂らして完成だ。
「ふわわわ♪」
美味しそうなパンケーキを前にして、ブリジット王女は目をハートマークにさせた。
語彙力が低下して、思考回路も幼児化しているような気がした。
失礼な感想なのだけど……
素敵なスイーツは女性の心を乱してしまう、ということか。
「いただきまーす! はむっ……んー♪」
「美味しいですか?」
「最高! パンケーキはふわふわで、それを生クリームが包み込んでくれて、でも甘すぎないからくどくなくて、あーもうっ、いくらでも食べられちゃいそう!」
「太りますよ」
「……」
ピシリ、とブリジット王女の動きが止まる。
それから、俺が恐怖を覚えるほどの目で睨みつけてきた。
「前にも言わなかったカナ? 女性に体重の話は厳禁なんダヨ?」
「も、申しわけありません……」
それなりに修羅場を潜ってきたという自負はあるが、それでも命の危機を感じるほどの恐怖だ。
ブリジット王女は、実はとんでもなく強いのではないだろうか?
「アルム君も食べる?」
「いえ、自分は……」
「いいから、いいから。この幸せを誰かにおすそ分けしたいんだよ。はい、あーん」
「えっと……」
「あーん」
「……あむ」
逃げられないと思い、素直に差し出されたパンケーキを食べた。
「どう? どう?」
「はい、とても美味しいです。男の俺が食べても、くどいとか感じないですね」
「だよね! ここのパンケーキはホント、絶品だよ。来てよかったー。それと、もう一つの夢も叶ったし」
「もう一つの夢?」
「大事な人に、あーん、ってしてあげること♪」
「……」
その大事な人というのは、どういう意味なのか?
意味を聞いてみたいと思い、しかし、踏み込むことができない。
「どうしたの、アルム君?」
「……いえ、なんでもありません」
結局、大事な人というのは聞き流すことにした。
ヘタレか。
「……アルム君のばか」
なにかつぶやきが聞こえたような気がするが、ハッキリとは聞こえなかった。
久しぶりに甘い回にしてみました!




