68話 第一関門
「ブリジット王女が口にした策ですが、高い成功率を確約できるとしたらどうでしょうか?」
「ふむ……続きを」
よし、食いついた。
ここで突っぱねられていたら終わりだったが、なんとか道を繋ぐことができた。
「策の成功確率を上げる三つの要素があります。まず一つに、自分の存在です。自分は皇女リシテアの専属だったことがあり、彼女のことは知り尽くしています」
「……むぅー」
ブリジット王女?
なぜ、そこで不満そうな顔をするんですか?
「えっと……皇女の行動パターン、思考パターンを把握しているため、策を成功させやすいと言えるでしょう。同時に、皇女経由で皇帝と皇妃に接したことが何度もあります。帝国の内情も詳しく、色々なルートを知っています。これらを活かすことができれば、やはり、策を成功させやすくなります」
「なるほどな。では、二つ目の要素は?」
「帝国の反体制派と連絡を取り、協力を得ることが可能です」
二手目で切り札を切る。
「帝国は、皇帝と皇妃、そして皇女の力が圧倒的です。一見すると栄えているように見えますが、貧富の格差は激しく、あちらこちらでガタが来ています。そんな帝国の未来を憂い、反体制派が育ちつつあります」
「どの程度の規模なのだ?」
「今では、帝国の五分の一を占めるほどになっていると」
これは、シャドウに調べてもらった情報だ。
彼女は暗殺だけではなくて諜報にも長けていて、その情報の正確性にはいつも驚く。
そうやって褒めると、シャドウはなぜか、あわあわしていた。
なぜだろう?
「反体制派の協力を得ることができれば、さらにスムーズに動くことができるでしょう。フラウハイム王国が動いて、さらにサンライズ王国の協力も得られたのならば、策は、ほぼほぼ成功するでしょう。もちろん、入念な準備とさらに計画を詰める必要はありますが」
「なるほどな……確かに、その通りだ。帝国内部に味方がいるのならば、クーデターを起こして、体制を入れ替えることも可能だろう。その成功確率は高い……ふむ」
ゴルドフィア王は首を傾げる。
「ここまで聞くと、これ以上に成功率を上げる要素はないように思えるが……三つ目は?」
「自分に命令してください」
さあ、ここからが最後の仕上げだ。
ここでうまく説得できれば……
「自分は執事です。主の願いを叶えることが仕事。ブリジット王女の専属ではありますが、しかし、王もまた主のようなもの。なればこそ、命令してください。革命を成功させろ……と」
「命令したらどうなる?」
「執事として、主のオーダーを叶えてみせましょう」
「失敗した場合はどうする?」
「失敗などいたしません」
「言い切るか。ならば、失敗した時は貴様の首をもらうぞ。聞けば、リシテア皇女は貴様に執心らしいからな。貴様の命を糧に、帝国に剣を収めてもらうことになるが、それでも構わないのか?」
「構いません」
即答した。
これくらいの覚悟がなければ、ゴルドフィア王を説得することは叶わない。
「……」
俺の覚悟を受け取り、王は考える。
そして、答えを……
「父様!!!」
「パパ!!!」
ブリジット王女と、その隣に並ぶシロ王女が大きな声をあげた。
王女らしからぬ様子で王を睨みつけている。
「アルム君を生贄にするとか、そんなの絶対に許さないからね!」
「そうだよ! お兄ちゃんを犠牲にして助かるなんて、ダメなんだからね!」
「お前達……いや、今のは……」
「というか、父様がそんなことを言うなんて見損なったわ! なんであろうと誰であろうと、民は命に賭けても守らなければならないとか、日頃、口を酸っぱくして言っているのに!」
「パパ、さいてー!」
「うぐっ……」
シロ王女の「さいてー」に、ゴルドフィア王は傷ついた様子で、ふらりとよろめいた。
「ま、待て。儂は……」
「父様、嫌い!」
「パパ、嫌い!」
「……」
あ、追撃が突き刺さっている。
やめてあげて。
それ以上はオーバーキルだから。
「えっと……ブリジット王女、シロ王女。落ち着いてください。王は本気というわけではありませんから」
「え?」
「そうなの?」
「自分の覚悟を試しただけだと思います。そうですよね?」
「う、うむ……」
まだダメージから回復していないらしい。
それでも、なんとかゴルドフィア王は頷いた。
「貴様が提示する情報に乗る価値はある。賭けに出てもいいと思うが……しかし、当の本人に覚悟がなければならない。それを見極めるために、あえて厳しい言葉をぶつけてみたのだ」
「本当に?」
「ほんとー?」
「ほ、本当だ」
娘達からの信頼が薄い。
その事実に、王は再び傷ついている様子だった。
「えっと……ブリジット王女、シロ王女。王の言うことは間違っていないので、あまり責めるようなことは……」
「まあ、アルム君がそこまで言うのなら」
「仕方ないよね」
「ぐっ……儂とこやつの差は、いったいどこから」
威厳を取り戻すかのように、ゴルドフィア王は咳払いをした。
「とにかく、だ。貴様の覚悟は受け取った。そして、策に乗る価値があると信じさせてくれた。そこは感謝しよう」
「父様、それでは……」
「うむ。帝国の暴挙を止めるため、国を守るため、動くことにしよう」
よし。
無事に王を説得できるかどうか?
うまくいくか心配だったが、どうにか最初の問題を突破することができた。
とはいえ、ここでゴールというわけじゃない。
ここからがスタートだ。
帝国の脅威を排除するために、できることをやっていかないと。
新しい故郷のために。




