63話 帝国の将軍
北の山に漆黒の牙が潜んでいた。
詳細な場所も突き止めた。
ここまでは計画通り。
しかし、ここで想定外の事態が起きる。
「アルム・アステニア……どうして、てめえがこんなところにいやがる?」
熊のような巨体。
岩のようなゴツゴツとした顔には深い傷跡が刻まれていた。
背中には丸太を利用したかのような巨大な棍棒。
「どうしてここにいるのか。それは俺の台詞なんだけどな……帝国の将軍の一人、ガンドス・ステグロト」
そう。
この大男は漆黒の牙の一員ではなくて、帝国の将軍のはずだ。
以前、リシテアの手で大規模な粛清の嵐が吹き荒れたものの、彼はその対象外だったはず。
シャドウによって裏付けがとれている。
それなのに、なぜ、こんなところで……?
「……いや、そういうことか」
以前の漆黒の牙の頭は俺が叩いた。
ただ、盗賊の頭なんて絶対無二の存在ではない。
誰かが代わり、盗賊団を存続することはできる。
漆黒の牙も同じように頭が代わり、存続していたと考えていたが……
一つ、疑問があった。
果たして、以前と同じ……それ以上の勢力に拡大することができるだろうか?
どれだけ優秀な者が新しいトップに立ったのか?
「なるほど。ガンドスが新たな盗賊団のトップになっていた、というわけか。道理で手強いわけだ」
「ガンドス『様』だろぉ、あぁん? てめえ、アルムのくせに、なに俺様のことを呼び捨てにしてやがる」
「俺はもう帝国民じゃない。関係ないあんたのことを様付けで呼ぶ理由はない。そもそも、元から敬ってすらいないからな」
この男は力だけで将軍の座を得た。
武力はすごい。
一騎当千という言葉がふさわしい力を持つ。
しかし、その他の能力は壊滅的。
軍をまともに指揮することはできないし、部下を育てる能力もない。
なによりもアウトなのが、その性格だ。
他者を蔑むことしかせず、常に他人を下に見る。
その癖、権力者には膝をついて頭を下げて媚を売る。
「あんたが漆黒の牙を率いていることはわかったが、なぜそんなことを? 帝国から追放されたのか?」
「はっ、有能な俺様が追放されるわけねえだろ? てめえのような無能とは違うんだよ、無能とは」
「……もしかして、リシテアの命令か?」
「っ!? てめえ、どうしてそれを……」
かまをかけただけなのに、簡単に引っかかってくれた。
ほんと、わかりやすい男だ。
ただ……
リシテアの命令か。
そうなると、彼女はサンライズ王国にもちょっかいを出してきたことになる。
いったいなにを考えているんだ?
これはもう、外交で片付けられるかどうか……
下手をしたら本当に戦端が開かれることになる。
「おいおいおい、余計なことを知ったな? てめえ、本気で生きて帰さねえぞ」
「自分で暴露したようなものだろうに」
「うるせえ! 生意気な口聞いてるんじゃねえっ」
ガンドスは棍棒を構えて戦闘態勢に入る。
一方の俺は迷っていた。
ここにガンドスがいることは、さすがに計算外だ。
ヤツの頭は、まあ……こんな感じだけど。
その力だけは本当に厄介だ。
騎士団と激突したらまずい。
「……ここで叩くしかないな」
「あぁ? てめえ、それは俺様に向けて言ってるのか?」
「もちろんだ」
「よく言ったな……死んだ、死んだぞ、おい」
普通なら、どうして俺がここにいるのか考えるはずなのだけど……
うまいこと挑発に乗ってくれて、こちらの望む行動をとってくれていた。
ただ……
「おいっ、てめえら! 客だ。丁重にもてなしてやれ」
「へへ、一人でやってきたのか?」
「あいつ、バカだな」
「可愛がってやろうぜ」
団員達も現れた。
数えるのがめんどくさくなるほどの人数だ。
ガンドスだけでも厄介なのに、他の連中も加わると、さすがに危機感を覚えてしまう。
すでに合図は送った。
ジーク王子が援軍を連れてくるまでの間、持ち堪えて……
いや。
それだとまずいか。
ガンドスだけはなんとかしておかないと。
ジーク王子達が到着すれば、ガンドスを含めて漆黒の牙を壊滅できる。
ただ、被害が大きくなるだろう。
できるならそれは避けたい。
「ガンドス……ここで、お前は潰しておく」
「面白れぇなあ、おい。潰されるのはどっちか、身の程ってもんを叩き込んでやるよ、その体になぁっ!!!」
フラグ満載のキャラです!




