61話 山狩り
「山狩りをしようと思います」
ジーク王子とネネカ王女。
そして、サンライズ王国の騎士達が集まる騎士団の会議室で、アルム君はそう語る。
「盗賊団……漆黒の牙は特定の拠点を持ちません。奇襲を得意として、長時間現場に留まることなく、すぐに立ち去る。故に、連中を叩くことは難しいです」
「ああ、その通りだ」
「あいつら、まるでハイエナだ。獲物の匂いを嗅ぎつけて、荒らすだけ荒らして、今度は俺達を嗅ぎつけて逃げ回る……くそっ」
騎士が会議室にある机を叩く。
それだけ強い怒りを持っているのだろう。
気持ちはわかる。
私も、フラウハイム王国が盗賊に荒らされたら同じような怒りを覚えると思う。
それに、私も漆黒の牙に襲われたことがある。
絶対になんとかしたい……けど。
神出鬼没の相手をどうすればいいんだろう?
アルム君は、なにか考えがあるみたいだけど……うん。
私は彼を信じる。
きっと、アルム君ならなんとかしてくれる。
だって……
彼は、最高の執事だから。
「連中の場所ですが、突き止める方法があります」
「なんだと!?」
「それは本当か!?」
アルム君は次のような説明をした。
拠点を持たないとはいえ、補給、休憩は絶対に必要。
人目のつくところでそれを行うわけがない。
今までの行動パターンを考えると、普段は山間部に潜み、体力を蓄えて……
そして、準備が整えば山を降りて襲撃・略奪を繰り返す。
「とまあ、そんな行動パターンが考えられます」
「わからない話ではないけれど、連中が山にいるという保証はあるのかな?」
ジーク王子がもっともな疑問を投げかけた。
「ここ数日、独自に情報を集めていました。その情報を精査して検証を重ねた結論です。100パーセントと言うことはできませんが、限りなくそれに近い数値を叩き出すことはできたと、それは断言できます」
「ふむ」
「今までゴミ掃除……盗賊の討伐は数え切れないほどやってきたので。自分は盗賊の心理にも詳しいです。どうか、信じていただけないでしょうか?」
うんうん。
私は信じるよ?
めっちゃ信じるよ?
あ、こらそこの騎士!
うさんくさいなー、とかそういう顔をしているね?
君の顔、覚えたからね?
「今は、少しでも頼りになるものが欲しい。君を信じさせてもらうよ」
「ありがとうございます」
「それで、最初の山狩りという話に戻るわけか。ふむ……せめて、どこの山にいるか絞らないとダメだな」
「さらに情報を集めないといけませんね」
「いえ、その必要はありません。すでにアタリをつけています」
「あら、本当に?」
ネネカ王女が驚いた顔に。
それもそうだろう。
サンライズ王国が必死に動いて、しかし、漆黒の牙の足取りを掴むことができなかったのに……
アルム君は、すでにある程度の情報を掴んでいるという。
でも……
ここ数日、なにかをしていた気配はないんだけどな?
いったい、いつの間に……
私も驚いてしまう。
「今、連中が潜んでいるのは、王国の北にあるこの山でしょう」
アルム君は会議室のテーブルに広げられた地図の一点を指差した。
「それで山狩りと言ったんだね」
「ただ、その根拠を教えてほしいのですが」
「シロ王女」
「ひゃい!」
なぜかシロちゃんが前に出る。
「えっと、その……し、シロが、じゃなくて。私が作った魔道具が、この辺りの山に多数の生命反応があることを突き止めまひた!」
ちょっと噛んでいたけど……
シロちゃんは、とんでもないことを口にした。
「シロ王女が……魔道具を? それは本当なのかい?」
「ひゃ、ひゃい! えっと、えっと……ひ、人はなにもしてない時でも微妙の魔力が漏れていて、だから、それを感知すれば特定することは可能で……」
「魔物や動物と誤認することは?」
「そ、それぞれ性質が違うので、それはないよ、ないです」
あ。
そういえば、ここ最近、アルム君と一緒になにか作っていたみたいだけど……
これか。
というか、うちの妹、天才すぎない?
たった数日でそんなものを作り上げるとか、ありえないでしょ。
可愛くて天才で、シロちゃん最高!
「シロ王女、説明いただきありがとうございます。さて……今、シロ王女に説明いただいた通り、北の山で複数の反応がありました。狩りや採取でないことは確認済みです。状況から考えて、北の山に漆黒の牙が潜んでいる可能性が高いかと」
「素晴らしいですね。まさか、この短期間でそこまで突き止めてしまうなんて」
「全てシロ王女が制作した魔道具のおかげです」
ここまで来て、私はアルム君の狙いを理解した。
漆黒の牙を討伐することはもちろん。
それだけじゃなくて、シロちゃんに自信をつけさせようとしているのだろう。
シロちゃんは天才だけど、でも、ちょっと人見知りなところがある。
自分で自分のすごさに気づいていないから、自信もちょっと足りていない。
アルム君はそれをすぐに見抜いて、シロちゃんに強くなってほしいと思ったのだろう。
だからこうして、大きな舞台で活躍させることにした。
そうすることで自信を少しずつつけていくことにした。
アルム君も制作に大きな成果を残したと思うけど、それを口にすることはない。
影に徹する。
そして、シロちゃんを華やかな舞台に上げる。
本当に素敵な執事だ。
彼と出会うことができた幸運を神様に感謝したい。
「……ありがとう、お兄ちゃん」
シロちゃんもアルム君の思惑を理解しているらしく、小さな声でそう言うのが聞こえてきた。
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