60話 広がる戦火
漆黒の牙がサンライズ王国で暴れ始めて、3日が経った。
漆黒の牙による被害は続いている。
連中は特定の拠点を持たず、常に移動を続けているらしい。
その途中、村などの小さなところを狙い略奪を働く。
しかし、捕捉されることを恐れているのか、長期の滞在は決してしない。
話によると、1時間程度で引き上げるという。
ただ、数十人の悪人が1時間に渡り暴れ回るのだ。
小さな村はひとたまりもなく、すでにいくつもの村が壊滅していた。
ジーク王子とネネカ王女は、漆黒の牙だけに専念する騎士団を結成。
討伐に向けて動いているが、今のところ成果は出ていない。
やはり、連中のフットワークが軽いことが問題が。
討伐しようとしても、すでに逃げられた後……というのがほとんど。
欲張り、残っていた構成員を捕らえたことはあるが……
本拠地を持たないために、残りのメンバーの居場所を特定することは難しく、今のところ、決定打に欠けている。
「……っていうところみたい」
ブリジット王女から一通りの説明を受けて、なるほど、と納得した。
拠点を持たない盗賊団は珍しい。
奪い取った宝を保管しなくてはいけないから、どうしても拠点が必要になる。
その拠点を必要としないということは……
「帝国かどうかわかりませんが、他所と繋がっている可能性が高くなりましたね」
「どうして?」
「手に入れた宝を即座に換金、あるいは引き取ってくれる者がいるんでしょう。盗賊しか知らない隠し場所があって、そこに一時保管している、という可能性もなくはないですが……後々で持ち出す手間と危険性を考えると、あまり考えづらいです」
「おー、お兄ちゃん、博識!」
「シロちゃん、それはちょっと使い方が違うかな」
「?」
よくわかっていないらしく、シロ王女は小首を傾げた。
賢い人ではあるが、まだまだ年相応のところがあるらしい。
「このままだと、どんどん被害が拡大していくね」
「最悪、長期戦になるかと」
「その分被害が……うーん」
ブリジット王女は悩ましげな声をこぼす。
同盟国としてなにかできないか?
そう考えているのだろう。
しかし、同盟国だからといって勝手に動くことは許されない。
これは、サンライズ王国の問題。
困っているからといって手を差し伸べたら、サンライズ王国の騎士の面子を潰すことになる。
友好を深めるためにやってきたのに、そのような事態になってしまったら台無しだ。
「ねえねえ、お姉様。お兄ちゃんにお願いして、助けてもらおう? なんなら、シロもがんばるよ?」
「うーん……シロちゃんのその気持ちは大事なんだけどね。でも、なかなか簡単には動くことができなくて」
「どうして?」
「まあ……大人は面子とかプライドとか、色々と面倒な問題があるんだよ」
「それって、民の生活より大事なもの?」
「……っ……」
ブリジット王女は、ハッとした顔になる。
たぶん、俺も似たような顔をしていると思う。
そう、その通りだ。
面子やプライドが絡んでいて、思ったことをそのまま実行するわけにはいかない。
でも、そんなことよりも、まずは民の生活を第一に考えるべきだろう。
面子?
プライド?
そんなものはどうでもいい。
同盟国の民が困っているのなら、それは自分達の問題でもあるはずだ。
「シロちゃん、ありがとう。おかげで、大事なことを思い出せたよ」
「ふぇ?」
「アルム君。ジーク王子とネネカ王女に面会したい、って伝えて」
「はい」
さあ、これから忙しくなるぞ。
――――――――――
「協力……ですか?」
夜。
どうにか面会の約束を取り、話をすることができた。
ブリジット王女は、漆黒の牙の件で協力したい旨を申し出た。
しかし、ジーク王子とネネカ王女の反応は微妙だ。
「しかし、これは私達、サンライズ王国の問題。フラウハイム王国が同盟国とはいえ、そうそう簡単に力を貸していただくわけには……」
ネネカ王女は、こちらが想定していた返事をした。
戦争となれば話は別だけど、今回の事件は国内で起きた問題。
いきなり他国の力を借りるわけにはいかない。
ただ、そんな想定はしていたため、こちらもスムーズにさらに言葉をかぶせることができる。
「同盟国だからこそ、今回の事態を放っておくことはできません。サンライズ王国に大きな被害が出ているのを黙って見過ごしていては、我がフライハイム王国の恥」
「それは……」
「もちろん、身勝手な行動はしません。指揮下に入りましょう。求められない限りは、本国から応援を連れてくることもしないため、邪推をされることもないでしょう」
「えっと……そうなると、できることは限られてくるのでは?」
「大丈夫です」
ブリジット王女はドヤ顔で俺を見る。
「こちらは、私の専属のアルム・アステニアと言いますが、彼に任せていただければ、今回の事件、早期に解決できるかと」
「ふむ?」
ジーク王子が興味深そうにこちらを見る。
ネネカ王女もそれに続いた。
見定めているのだろう。
妙な圧を感じるものの、ここで目を逸らすわけにはいかない。
しっかりと、まっすぐ見返す。
「執事になにができるのか、大きな疑問なのだけど……うん。ネネカ姉さん、いいんじゃないか?」
「ですが……」
「正直なところ、猫の手も借りたいくらい困っているじゃないか。ブリジット王女がここまでのことを言うのなら、自信があるということ。軍を借りると問題になりそうだけど、個人なら大丈夫だよ」
「……そうですね、なら」
ネネカ王女が俺の前に来て、そっと手を差し出した。
「力を貸していただけますか?」
「はい」
そっと、ネネカ王女の手の甲にキスをする。
「むっ」
ブリジット王女がぴくりと眉を動かした。
いや、あの……
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