6話 実は規格外でした
「よし」
朝。
陽が昇ると同時に目が覚めた。
ここは、王城内にある使用人の寮。
その一室。
ここが俺の部屋で、そして、新しい職場でもある。
今日から俺は、ブリジット王女の専属だ。
専属というと、リシテアのことを思い出してしまうが……
過去のことは忘れよう。
心機一転、新しい地でがんばろう。
「さて、仕事をするか!」
――――――――――
「アルム君、ちょっと私の仕事を手伝ってくれないかな?」
最初の仕事はブリジット王女のサポートだった。
聞くところによると、日々、彼女は公務を行っているらしいが……
秘書がいないらしく、仕事が捗らないようだった。
「わかりました。なにをすればいいでしょう?」
「この書類のチェックをお願い。誤字とか脱字とか、そういうところをメインに」
「了解です」
書類の束を受け取る。
使っていない机を借りて、さっそく書類の精査を開始する。
……1時間後。
「終わりました」
「えっ、もう? 数百枚はあったと思うんだけど、早いね」
「速読術を習得していますから」
「さすがアルム君だね」
にっこりと笑うブリジット王女に書類を渡す。
彼女は、さっそく書類に目を通して……
みるみるうちにその顔色が変わる。
「……え? 誤字脱字のチェックだけじゃなくて、論法や計算ミスの指摘も……? ううん、それだけじゃない。河川整備計画の不備や、他の計画で収支が合わないところまで指摘されていて……えぇ、嘘? これを1時間でやったの?」
「……すみません」
「えっ、なんでアルム君が謝るの?」
「やっぱり、その程度の仕事に1時間もかけてしまうなんてダメですよね……」
「いやいやいや、この程度なんかじゃないよ!? とんでもなくすさまじい量で、しかも、予想の遥か上を行く優秀な仕事をしてくれているよ!?」
「調子がよければ30分もあれば終わるんですけど、まだ慣れない職場なので……」
「さらに半分で終わるの!?」
なぜ驚いているのだろう?
帝国にいた時は、
「なんでこれくらいの仕事、10分で終わらせられないわけ? はー……無能すぎてびっくりするんだけど。無能・オブ・無能ね。明日は5分で終わらせなさい」
って怒られていたんだけどな。
「それ、皇女様の方がおかしいからね……?」
昔の話をすると、ブリジット王女はものすごく複雑な顔をした。
――――――――――
その後も、ブリジット王女のサポートをするという仕事をして……
そして、3時間が経過した。
「次の仕事をください」
「……ないよ」
「え? どういう意味ですか?」
「そのままの意味だから! もう仕事なんてないよ!?」
「ふむ……今日はたまたま仕事が少なくて、3時間で終わってしまった、ということでしょうか?」
「違うから! 本来ならもっともっと時間がかかるはずで、っていうか、今、アルム君が片付けた仕事は一週間分のものだからね!?」
「はは、冗談を」
この程度の量の仕事が一週間分だなんて、そんなことがあるわけがない。
ブリジット王女は冗談がうまいな。
「冗談なんかじゃないからね? アルム君は、たった3時間で一週間分の仕事を終わらせたんだよ」
「……え、本当ですか?」
「マジ」
「なるほど……ブリジット王女は優しいですね」
きっと、俺のことを気遣ってくれているのだろう。
自信を持たせるために、わざとそんな嘘を吐いているのだろう。
本当に優しい人だ。
俺は、この人のためにがんばりたい。
「よし! もっともっと精進しないといけないな」
「これ以上レベルアップして、アルム君はどこを目指すつもりなのかなあ……?」
なぜか、ブリジット王女は呆れた顔をするのだった。
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