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58話 サンライズ王国の影

「最近の帝国の動きは目に余るものがあります。それはみなさんもご存知のはず。今こそ、私達の結束を今まで以上に強くするべきです」

「そうですね……ブリジット王女の言う通り、帝国の無法が目立っています。先日、我がサンライズ王国も帝国の被害を受けました」

「それは、どのような?」

「突然、国境近くで帝国が軍事演習を始めたんですよ。僕達を揺さぶるつもりだったのだろうけど、その際、こちらに多少の被害が出てしまい……」

「もちろん賠償請求と謝罪を求めましたが、まともに応じてくれず……はぁ、本当に頭が痛いです」


 会談が始まり、フラウハイムとサンライズの間で色々な情報と意見が交換されていく。


 ブリジット王女の強い推薦で俺も同席することが許可された。

 もっとも、意見は求められていないため、ブリジット王女の後ろで待機しているが。


「あ……えと……あぅ」


 ブリジット王女が積極的に意見を交わす中、シロ王女はなにも言えていない。


 意見がないというわけじゃない。

 ただ、どのタイミングで口を挟んでいいか迷っている様子だ。

 単純にこういう場に慣れていないのだろう。


「ねえ、シロちゃん。シロちゃんは、この問題についてどう思う?」

「ふぇ!?」


 話を振られ、シロ王女がびくんと震えた。


「え、えっと、その、あの……!?」

「どんな意見でもいいの。シロちゃんが思ったことを聞かせて?」

「あ、うん! じゃなくて、はい! えっと、シロは……」


 ブリジット王女のサポートがあって、シロ王女も会談に参加する。

 よかった。


 それにしても……

 このような場でも、ちゃんと妹のことを見ている。

 さすがだ。




――――――――――




「んーーーあーーー……疲れたよぉ、アルム君。甘いものちょうだい?」


 初日の会談が終わり、部屋へ戻り……

 先程の凛々しい姿はどこへやら、ブリジット王女はぐだーっとした感じでソファーに座り、そのままごろんと横になる。


「お姉様、ちょっとだらしないよ?」

「いいのいいの、今はジーク王子やネネカ王女に見られていないから」

「シロ達がいるのに……」

「シロちゃんやアルム君だからこそ、こうしてだらけているんだよー」

「ブリジット王女、クッキーはいかがでしょう?」

「やった♪ アルム君の手作りクッキー、いただきぃ!」

「お兄ちゃんも、お姉様を甘やかしすぎだよ……」


 シロ王女はため息をこぼして、それから立ち上がる。


「シロちゃん?」

「……ちょっとお散歩してくるね」


 元気のない様子で部屋を出ていく。


「ブリジット王女、俺……」

「うん、シロちゃんのことをお願い」

「はい」


 急いでシロ王女を追いかけた。


「シロ王女」

「お兄ちゃん? どうしたの?」

「一緒に散歩をしてもいいでしょうか?」

「え? でも……」

「一人で散歩するより二人の方が楽しいと思いますよ」

「……うん、一緒にお散歩しよう」


 まだ元気はないものの、シロ王女は俺を受け入れてくれた。


 いつもは半歩後ろを歩くのだけど、今は隣を歩くことにした。

 ちょっとでも目を離したらシロ王女がそのまま消えてしまいそうな、そんな儚さを感じる。


「……お姉様はすごいね」

「ブリジット王女ですか?」

「うん。ちゃんと立派に『王女様』をやっている。でもシロは……」


 足を止めてうつむいてしまう。


 優秀なブリジット王女に嫉妬して。

 それと、自分と比べて落ち込んで。


 ……たぶん、そんなところだろうか。


「気にしないでください……と言っても無理ですね」

「そうだよ、無理だよ。シロも王女なのに、でも、お姉様みたいにうまくいかない……今日もちゃんと話すことができなくて、しどろもどろだった」

「そのようなことはありません。きちんと意見を口にできていたじゃないですか」

「それは、お姉様が助けてくれたから……もしもお姉様がいなかったら、シロは、なにもできていないよ……」


 シロ王女はブリジット王女のことが大好きなのだろう。

 それは間違いない。

 でも同時に、どこかで比べてしまい、劣等感を抱いているようだった。


 その気持ちはよくわかる。


「焦りすぎですよ」

「え?」

「ブリジット王女は優秀で、シロ王女は、確かにまだ至らないところがあるかもしれません」

「うぅ……お兄ちゃんの意地悪」

「申しわけありません。しかし、それだけが本心というわけではありません」

「どういうこと?」

「ブリジット王女の方が年上ですから、それだけ優れているのは当然ですよ。経験の差ですね。シロ王女はまだ幼いのですから、気にする必要はないかと」

「でも……」

「実は、俺には姉がいました」


 天才という言葉がふさわしい姉だった。


 剣を渡したら、翌日には華麗な技を披露して。

 魔法書を渡したら、翌日には初級魔法を全てマスターしていた。


 才能に優れているだけじゃなくて、容姿も綺麗に整っていた。

 同性異性問わず、全てを魅了するような天使と呼ばれていた。


 それに優しくて思いやりがあって……

 完璧超人だ。


「嫉妬しましたね。妬んで拗ねて、八つ当たりをしたこともあります。でも姉は怒らないで、ちょっと困った顔をしつつ、子供の俺を優しく叱りました」

「お兄ちゃんよりすごいお姉様って、神様?」

「大げさですよ」

「そう思うくらいに、お兄ちゃんがすごいんだけど……うーん? でも、優しいお姉様なんだね」

「はい。でも……今はどこにいるか、もうわかりません」


 優秀な姉は奨学金を得て、別の国の学校に通うことになった。

 ただ……

 その途中で事故に遭い、行方不明になってしまう。

 もうずっと行方不明のままだ。


「そうだったんだ……」

「だから、というわけではありませんが……ブリジット王女とは仲良くしてください。そして、差があるということはあまり気にしないでください。そんなことを気にするよりも、もっと大事なことがあると思いますから」

「……うん、そうするね!」


 シロ王女は元気よく頷いた。


 よかった。

 つまらない話だったけど、どうにかシロ王女を元気にすることができたみたいだ。


「ねえねえ、お兄ちゃん。ちょっとかがんで?」

「はい、こうですか?」

「ちゅっ」


 シロ王女が俺の頬にキスをする。


「え、えっと……」

「えへへー♪ お兄ちゃんは優しいね」

「そんなことは……」

「お兄ちゃんのお姉様の話をするの、それだけでも辛いはずなのにシロのためにしてくれた。すごく優しいよ」

「……」

「でも、ちょっと心配になっちゃう。お兄ちゃんは自分の痛みを我慢しても誰かのためにがんばっちゃうから。無理しちゃわないかな? って心配になっちゃう。だから、シロががんばるね! お兄ちゃんを無理させないように支えてあげる!」

「……ありがとうございます」

「よしよし」


 シロ王女に頭を撫でられて……

 今はもう少し、このままでいることにした。

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