55話 旅と思わぬ荷物
色々な準備が終わり、サンライズ王国に向かう日がやってきた。
今回は公式な訪問なので、それなりの数の護衛がいる。
それと、馬車は広く大きい。
俺は専属の執事ということで、ブリジット王女と一緒に乗っているのだけど……
「……」
ものすごく空気が重い。
ブリジット王女は目を逆三角形にして、ピリピリとした雰囲気だった。
時折、こちらを睨みつけて、ふんっと鼻を慣らす。
原因はわかっている。
シロ王女の一件以来、とても機嫌が悪い。
嫉妬……なのだろうか?
ただ、それは自惚れでは? という思いもあって……
というか、嫉妬だとしてもどうすれば?
さすがに、こんな時にどう対応すればいいか? なんて執事マニュアルはない。
困った。
馬車の中に気まずい沈黙が漂い……
そんな時、石を踏んだのか、ガタンと大きく揺れる。
「あいたっ!?」
馬車の後部にある荷物置き場から声が聞こえてきた。
「アルム君、今の……」
「ええ」
聞き間違いや幻聴の類ではない。
確かに声がした。
「ごめん、馬車を止めて!」
ブリジット王女の合図で馬車が止まる。
何事かと不思議そうにする護衛の騎士達。
みんなに疑問を解消するために、俺は荷物置き場を開けて……
「あはは、バレちゃった」
シロ王女を発見するのだった。
「シロちゃん!? こんなところでなにをしているの!?」
「お姉様のお手伝いをしようと思って」
「お手伝いで忍び込む人なんていないよね? 本音は」
「お兄ちゃんと一緒にお出かけなんてずるい!」
「はー……もう」
やれやれとブリジット王女はため息をこぼす。
「あのね……シロちゃん、これは遊びじゃないの。お仕事。しかも、大事な公務。そこのところ、わかっているかなー?」
「シロが一緒でもいいじゃない。邪魔しないから。ね? ね?」
「だーめ。シロちゃんは王都に戻すよ」
「でも、今から戻っていたら時間なくなっちゃうよ? 遅刻しちゃうよ?」
「うぐ……この子、妙なところで聡いんだから」
「お願い、お姉様! シロも一緒に行きたいの!」
「……アルム君、シロちゃんが増えても大丈夫かな?」
「俺個人としては問題ありません。護衛もこなしてみせます。あと、十人くらい増えても対処できるキャパシティは持っているつもりなので」
「なにそのありえないキャパシティ……はぁ」
今度は疲れたようなため息。
ブリジット王女が折れた瞬間だった。
「ちゃんと私の言うことを聞ける、って約束できる?」
「できる!」
「絶対に邪魔をしたらダメだよ?」
「うん!」
「もう、仕方ないなあ……特別だからね?」
「わーい♪」
シロ王女の粘り勝ちだ。
こうして、サンライズ王国への旅路にシロ王女も一緒することになったのだけど……
「ふんふーん♪」
シロ王女は俺の膝の上に座り、ご機嫌よさそうにたっぷりの笑顔だ。
そんな妹を見て、ブリジット王女がどんどんやさぐれていく。
「……ねえ、シロちゃん。どうして、アルム君の膝の上に座っているの?」
「だって、馬車が狭いんだもん」
「お姉ちゃんの膝の上でもいいんじゃないかな?」
「やだー。お姉様、ぷよぷよすぎるんだもん」
「ぐはっ!?」
無自覚な刃がブリジット王女の心を抉る。
大丈夫です。
俺は、ブリジット王女が太っているなんて思っていませんから。
健康的な体型ですよ。
……と言いたいものの、とてもデリケートな話題なので言えなかった。
「あ、アルム君が迷惑しているでしょ?」
「え……お兄ちゃん、シロは迷惑……?」
「いえ、あの……」
ブリジット王女は視線で、「頷いて」と言ってくる。
しかし、雨に濡れた子猫のようにしょんぼりするシロ王女を見ていたら、そんなことはとてもじゃないけど言えない。
「……迷惑だなんてこと、ありませんよ」
「ほんと?」
「はい。俺はブリジット王女の専属ですが、しかし、執事であることに変わりありません。シロ王女にも仕える立場ですので」
「なら、いいの?」
「わーい♪ やっぱり、お兄ちゃん優しくて好きー!」
「ぐぎぎぎっ」
やばい。
シロ王女は喜んでくれたものの、ブリジット王女は怒り心頭といった感じだ。
手に持った扇をへし折りそうになっている。
でも……
どうして、そこまで怒るのだろう?
妹を取られたから?
それとも……
色々と考えるのだけど、結局、答えは見つからなかった。
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