52話 新しい要求
「シロちゃん、無茶を言わなかった?」
翌日。
いつものようにブリジット王女の元で仕事をしていると、そんなことを聞かれた。
「いえ、大丈夫ですよ。こう言うのもなんですが、とてもいい子でした」
「よかった。シロちゃん、好きな人にはちょっとわがままになるから、そこを心配していたんだけど、特に問題はなかったみたいだね」
「えっと……その理屈だと、俺が好かれること前提だったようですけど」
「当然だよ。アルム君が嫌われるなんて展開、ぜんぜん予想できないもの」
妙な信頼をされているのだけど、喜ぶべきなのかどうか。
「ただ、好きを超えて大好きになっちゃった場合、ちょっと困ったことになるかも」
「どういうことですか?」
「えっとね……」
ブリジット王女がなにか説明しようとしたところで、バンッ! と勢いよく扉が開いた。
「いた! お兄ちゃん、みっけ!」
「シロ王女?」
突然の来訪者はシロ王女だった。
にっこり笑顔になると、勢いよく俺に抱きついてくる。
「むっ」
ブリジット王女の目が鋭くなるけれど、子供のすることなので気にしないでほしい。
というか、嫉妬?
「ねえねえ、お兄ちゃんは仕事終わった? 終わったらシロと一緒に遊ぼう? ね、ね?」
「えっと……」
「こーら」
「はふん」
猫にやるような感じで、ブリジット王女がシロ王女をつまみ上げた。
「アルム君はまだ仕事中なんだよ? 困らせたらダメ」
「あぅ……ごめんなさい。お兄ちゃんと一緒にいたくて、つい」
「まったく」
なんだかんだ、妹のことが可愛くて仕方ないらしく、ブリジット王女は強く言えない様子だ。
「仕事が終わったら、三人で一緒にご飯を食べる?」
「食べる!」
「うん。なら、終わるまでおとなしく待っていることはできる? それなら、ここにいてもいいから」
「おとなしく待っている!」
「よろしい。じゃあ、そこのソファーで本でも読んでいてね」
「はーい」
さすがブリジット王女だ。
強く言えないものの、シロ王女の扱いに慣れていて、きちんと言うことを聞かせていた。
「あ、そうだ!」
ソファーに向かうシロ王女は、途中でなにか思い出した様子で反転する。
「ねえねえ、お姉様。お兄ちゃんのことなんだけど……」
「専属に欲しい、とか言ってもダメだからね? アルム君は私のもの」
「専属はいいの」
「あれ、そうなの?」
「それよりも、お兄ちゃんと結婚したい!」
「ごほっ!?」
特大の爆弾発言に思わず咳き込んでしまう。
「……」
ブリジット王女が、ナニヲシタノ? という感じで、光のない目でこちらを見る。
やめてください。
その顔、ものすごく怖いです。
あと、俺はなにもしていません。
「えっと……シロ王女? そのような冗談は……」
「冗談じゃないもん! シロ、お兄ちゃんと結婚したい! 好き♪」
「アルム君? ねえ、アルム君?」
やばい。
かつてないほどブリジット王女が恐ろしい。
大事な妹を奪われるかもしれないと、ものすごく怒っている。
ただ、単純な怒りだけではないような……?
「こ、これは誤解です。俺は特になにもしていません」
「えー、昨日、あんなに優しく抱きしめてくれたのに。頭もなでなでしてくれて、あんなこともして……お兄ちゃんを好きになった責任、取ってくれないと!」
「アルムクン?」
ブリジット王女の声のトーンがどんどん低くなっていく。
心なしか部屋が寒くなっているような……?
そんな時、扉が開いた。
姿を見せたのは……ゴルドフィア王だ。
このタイミングの登場。
もしかして、もしかしなくても……
「アルムよ」
「は、はい……」
「貴様のことは信頼していたが、どうやらそれは間違いだったようだ。シロに手を出すとは……!」
「やっぱりそういう展開になりますよね!?」
運命の神様はとことん意地悪らしい。
「んー? お姉様もお父様も、どうしてそんなに怒っているの? んんんぅー……?」
一人、状況をよく理解していない様子で、シロ王女は小首を傾げていた。




