51話 気に入りました
「えっと……」
予想外の発言に、ブリジット王女は困ったような顔に。
たぶん、俺も似たような顔をしていると思う。
「シロ、お兄ちゃんに興味があるんだ。だから、お兄ちゃんが欲しいの。ダメ?」
「えええっと……」
ブリジット王女はものすごく困った顔に。
可愛い妹の頼みは聞いてあげたい。
でもさすがにそれは……と、どう返事をすればいいか悩んでいる様子だ。
「アルム君は私の専属だから……シロちゃんに取られちゃうと、お姉ちゃん、困っちゃうなー」
「むう……お姉様、困っちゃう?」
「うん、困っちゃう」
「……なら、今日一日だけお兄ちゃんを貸して? シロも専属を持ってみたいの」
「うーん」
ブリジット王女は困った顔でこちらを見た。
妹のわがままに付き合ってもらってもいい? という感じだ。
「では、将来、シロ王女が専属を持つ時に備えての予行演習ということで、今日一日、俺が専属になりましょうか」
「やったー、わーい♪」
ところどころ言動は大人っぽいところがあるものの、こうやって無邪気に喜ぶところは年相応だ。
ブリジット王女が可愛がるのも納得だ。
「じゃあじゃあ、こっちに来て! シロと一緒にお散歩するの!」
「かしこまりました」
ブリジット王女に小声で呼び止められる。
「……ごめんね、アルム君。妹のわがままに付き合わせちゃって」
「……いえ、気にしないでください。これも執事の務めです」
「……シロちゃんはいい子だから、無茶は言わないと思うんだけど。もしも目の余るような言動をとったら、その時は容赦なく叱っていいからね」
「……さすがに、一介の執事が王族を叱るというのはちょっと」
「……だいじょーぶ。私が許可するよ」
「……かしこまりました」
「お兄ちゃん、早く早く!」
シロ王女に呼ばれ、俺は急いでその後を追いかけた。
――――――――――
「えへへー、お兄ちゃんと一緒の散歩、楽しいね♪」
「光栄です」
シロ王女は笑顔だ。
さきほどから一緒に散歩をしているのだけど……
ちょくちょく色々な質問をされる。
あのお花の名前は?
どうして騎士は重い鎧を着ているの?
執事ってなにをしているの?
そんな質問に丁寧に答えていたら、すっかり懐かれてしまったみたいだ。
今では手を繋いでいる。
「んー……」
ふと、シロ王女がじっとこちらを見る。
「どうされましたか?」
「お兄ちゃん、なんでも知っているね」
「さすがになんでも、というわけにはいきませんけど……ある程度のことならば自信はあります」
「例えば、どんなこと?」
「限定されると困りますが……城の図書館にある情報なら、自由に引き出すことはできるかと」
「んゆ? それ、どういうこと?」
「図書館の本を全て目を通して暗記をしたため、答えることができます」
「……そんなこと、普通できないよ。お兄ちゃん、すごいのかおかしいのか、うーん、判断に迷っちゃう。ますます興味が。やっぱり解剖してもいい?」
「……それは勘弁してください」
この子の将来がちょっと心配になる。
「俺からも質問いいですか?」
「うん、どーぞー」
「シロ王女は、普段はなにをされているのですか? 俺のことだけではなくて、シロ王女のことも教えていただけると嬉しいです」
「シロ? シロは、魔法のけんきゅーや道具のかいはつーをしているよ」
「え」
「新しい魔法とか、新しい魔道具とか。工作は得意なんだよ、えへん♪」
マジか?
魔法や魔道具の開発をしているとしたら、シロ王女はとんでもない天才ということになる。
まだ十歳なのに、そんなことができるなんて……
「シロ王女はすごいですね」
「そうなんだよ、シロはすごいんだよ!」
ものすごく得意そうな顔に。
でも、そうやって誇るだけのことはしていた。
ブリジット王女は人の上に立つ器を持っている。
対するシロ王女は、新しいものを開発する知識に優れている。
そしてゴルドフィア王は武力に特化していて……フラウハイム王国の王族は、なにかしら秀でたものを持っているのだろう。
「いや、もう……本当にすごいですね。まさか、それほどのことを成し遂げているなんて想像もしていませんでした。素晴らしいと思います」
「……お兄ちゃん、信じてくれるの?」
「え?」
「シロがこの話をすると、初めて会う人は、ぜんぜん信じてくれないよ? 貴族とか商人とか。すごいですね、って笑うけど、裏でシロのことを『嘘つき』って言っているの。そんなことができるわけがない、って信じてくれないの」
シロ王女は泣き出しそうな顔になっていた。
今まで心ない言葉に傷つけられていたのだろう。
「俺は信じますよ」
「……あ……」
不敬と自覚しつつ、シロ王女の頭を撫でてしまう。
こうして彼女を褒めることが、今、なによりも大事に感じたから。
「他の誰がなんて言おうと、俺はシロ王女のことを信じます。あなたはすごい人だ。本当にすごいと思います」
「……お兄ちゃん……」
「よくがんばりましたね」
「……っ!!!」
ぎゅっと、シロ王女が抱きついてきた。
俺に顔を埋めるようにする。
「うぅ……あう、うううっ……」
「……本当によくがんばりました」
王女だからみっともないところは見せられない。
そんな思いがあるらしく、泣き顔は見せないものの……
でも、俺から離れようとしない。
しばらくの間、そんな彼女の頭を優しく撫でるのだった。
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