50話 第三王女
サンライズ王国を訪問するために、色々な準備を重ねていた。
物資の手配。
護衛の手配。
それだけではなくて、サンライズ王国に訪問の連絡と許可を取らないといけない。
断られることはまずないと思うが、即日、許可が降りるということはない。
しばらく待たないとダメだろう。
そうして、日々を準備に費やしていたのだけど……
そんなある日のこと、事件は起きた。
――――――――――
「ふむ」
各部署に足を運び、情報を共有して……
ひとまずの作業が終わったところで、俺は足を止めた。
ここ最近、視線を感じる。
シャドウがたまに「構って構って」という視線を送ってくるものの、それとは違う。
例えるなら、子犬のような感じ。
興味があるけど怖くて近づけない、というように、少し離れたところからじっと見つめられている。
特に害はなさそうだけど……
このまま放置したら、それはそれで面倒なことになりそうだ。
俺は廊下の角を曲がり……
そのまま先に進むフリをして、反転。
尾行する者を誘い出した。
「ふにゃ!?」
戻ると、ぽんという感じでなにかがぶつかる。
それと、可愛らしい声。
「あいたたた……」
見ると、小さな女の子が尻もちをついていた。
十歳前後だろうか?
体は小さく、顔はまだまだ幼い。
ただ、非常に愛らしい。
子猫とか子犬とか、あるいはひよことか。
そんなものを連想させるような可愛らしさがあり、庇護欲をそそられてしまう。
ただ、それだけではない『なにか』を感じる。
そして、髪の色と瞳の色はブリジット王女と同じ。
これはもしかして……
「失礼しました。大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
手を差し出すと、女の子は笑顔を見せてくれた。
立ち上がり、ドレスについた汚れを手で払う。
「でも、いきなり反転するなんて危ないよ? シロだったからよかったものの、他の人だったら怪我をしていたかも」
「申しわけありません。なにしろ、最近、何者かに尾行されていたので」
「うっ」
「その者を誘い出そうとした結果です。ちなみに、誘い出されたのはあなたなのですが……」
「うううっ」
女の子はダラダラと汗を流した。
ややあって、なぜかドヤ顔を決める。
「そうよ、よく見破ったわね! あなたの後をつけていたのは、そう、このシロ様よ!」
第三王女。
シロ・スタイン・フライハイムは、胸を張り、そう言い放つ。
ブリジット王女に姉妹がいることは聞いていた。
今まで仕事が忙しく、顔を合わせる機会がなかったのだけど……
まさか、こんな形で知り合うとは。
「どうして、俺をつけていたんですか?」
「あなたに興味があったの」
「俺に?」
「今まで専属をつけたことのないお姉様がいきなり専属をつけた。そしてその専属は、なんか、すごいことを連発しているみたい。そんな話を聞いたら、観察するしかないよ!」
好奇心で俺に近づいてきたらしい。
「俺は、観察するほど面白い人間ではありませんよ」
「そんなことないよ? お兄ちゃんは、すごくすごく楽しいよ? シロ、お兄ちゃんを観察してて、すごく楽しかったもん」
「そうなのですか?」
「うん! 執事ってことになっているけど、でも、どう考えても執事じゃできないようなことをやっているし。それが当たり前、って顔をしているし。うーん……お兄ちゃんは、いったいどういう構造をしているのかな? ねね、ちょっと切開して中を見てもいい?」
「ダメですよ」
可愛らしい笑顔でなんて恐ろしいことを言うんだ、この王女様は。
無邪気で元気。
そして、興味のあるものに対してとことん一直線。
なんとなく、第三王女の性格が読めてきた。
「あ、いたいた。アルム君、この前の資料なんだけど……って、あれ? シロちゃん?」
測ったようなタイミングでブリジット王女がやってきた。
俺と一緒にいるシロ王女を見て、小首を傾げる。
「シロちゃんと一緒だったんだ……って、ごめんね。そういえば、シロちゃんのことを紹介してなかったね。最近はお勉強が忙しいから、邪魔したらいけないかな、って後回しにしていたんだけど……」
「今、ご本人に自己紹介をしていただけました」
「ふふん!」
なぜかシロ王女がドヤ顔を決める。
いや、本当になぜだ?
この子、その場のノリで生きているのかもしれない。
「シロちゃん、アルム君に失礼をしていない?」
「していないよー。シロ、立派な淑女だもん」
「ふふ、そうだね。シロちゃんは立派な淑女だよねー、よしよし」
「にへー♪」
頭を撫でられて、シロ王女は嬉しそうに笑う。
姉のことが大好きで大好きで仕方ない、という感じだ。
そしてブリジット王女もまた、妹のことが可愛くて可愛くて仕方ないらしい。
「ねえねえ、お姉様」
「なぁに?」
「お兄ちゃんをシロにちょうだい?」
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