46話 めでたしめでたし……とはいかない
「おめでとうございます」
ブリジット王女は笑顔で花束を差し出した。
店主は、やや照れくさそうにしつつ、笑顔で受け取る。
「ありがとうございます。王女様の支援のおかげで、無事、店を再開することもできました。妻も、もう少しすれば店に立つことができるらしく……支援だけではなくて、とてもいい医師を紹介していただき、本当に感謝の言葉もありません」
「ううん、気にしないで。ここの料理は美味しいから、なくなっちゃうのは寂しいなー、っていう私のわがままだから」
「わかりました、そういうことにしておきます。では、せめてものお礼として、精一杯腕を振るわせていただきます」
「わーい♪」
店内に案内されて、席についた。
「じゃあじゃあ、うーん……クリームコロッケとメンチカツ、それとエビフライをお願い♪」
「俺は、ハンバーグ定食で」
「承りました。少々お待ちください」
店長が笑顔で奥の厨房に消えた。
店長と奥さんを祝いに来たのだけど、逆に歓待を受けてしまった。
これもブリジット王女の人柄が為せることだろう。
「ところで、ブリジット王女」
「なに?」
「あんなに注文して大丈夫なんですか? 太りますよ?」
「うぐっ」
ブリジット王女は、胸に矢を受けたかのようにふらついた。
そして、涙目でこちらを睨みつけてくる。
「アルム君……世の中、言って良いことと悪いことがあるんだよ?」
「……申しわけありません……」
恐怖でちょっと背中が震えた。
女性に体重の話をするのは禁止だな。
「冗談はともかく……」
「一連の事件について、だね?」
アルフレッドはリシテアにそそのかされたらしい。
シャドウもまた、リシテアに雇われたらしい。
そして今回の事件。
細部まで調べてみると、帝国が裏で関与していることが判明した。
リシテアの仕業かどうか、そこはまだわからないのだけど……
これまでの流れを考えると、十中八九、彼女の仕業で間違いないだろう。
「厄介な子に目をつけられちゃったね」
「なにか手を打たないと、このまま続くかと」
「とはいえ、どうしたものかなあ……」
ブリジット王女が迷うのもよくわかる。
最近、なぜか色々な人材が流出しているが……
それでも帝国は巨大だ。
なにせ、国土からまるで違う。
王国の約五十倍の国土を持ち、豊富な資源と人材を持つ。
兵器の技術、魔法の技術も共に高い。
その文明レベルは他国の10年先を行っていると言われていた。
圧倒的な力を持つ帝国に対抗するため、王国を始めとする周辺国家は同盟を結んでいる。
いざという時は帝国対多国家、という図式ができあがる。
故に、そうそう簡単に開戦することはない。
一応、今はそこそこ平穏な関係を築いている。
「おたくの皇女さんがちょっかいかけてきているから、やめてくださいね? って文句を言うしかないかな」
「それは……正直、やめておいた方がいいかと」
「え? どうして?」
「リシテアは、皇帝、皇妃から溺愛されているので」
帝国にいた頃、何度かリシテアが両親と一緒にいるところを見たことがある。
リシテアは笑顔で両親にわがままを言っていて……
そして、皇帝と皇妃は、そんな彼女を思い切り甘やかしていた。
リシテアは皇帝の娘で……
しかも、最強の権力を持つ皇帝と皇妃から溺愛されている。
故に、好き勝手に振る舞うことができるのだ。
「皇帝と皇妃はとても有能な方だけど、娘のことになると、途端に目が曇ってしまいまして……抗議をしても、「うちの娘がそんなことをするわけがない!」と一蹴されてしまうでしょう。下手をしたら反感を買い、いらぬ火種になるかと」
「なんて親ばか……」
ブリジット王女はやれやれとため息をこぼす。
「子供が悪いことをしたら叱る。そんな当たり前のことができないなんて……私なんて、今までに何度、叱られたことか」
「なにかしたんですか?」
「えっと……習い事から逃げたり、つまみぐいをしたり、いたずらをしたり。って、私のことはいいの! リシテアの対策を考えないと」
うーん、と二人で頭を悩ませる。
リシテアの無茶を止めたい。
でも、相手は巨大な力を持つ帝国の娘。
下手に手を出せば火傷では済まないかもしれない。
「……今は同盟の結束を強化するしかないかな?」
「結束の強化……ですか」
「うん。みんなでがんばりましょうね、っていう感じで結束して、帝国に圧をかけるの。それと同時に、リシテアがこんなことをしていますよ、ってさりげなく暴露するの。抗議っていう形じゃなくて、自然と向こうに情報が届くようにね」
「なるほど。皇帝と皇妃はリシテアを溺愛しているけど、バカじゃない。娘の行動が帝国の不利益になりすぎると判断すれば、さすがに止める……というわけですね?」
「確実性のない、期待論だけどね。でも、今できることはこれくらいかな?」
ブリジット王女が言う通り、他に手はないだろう。
さすがに帝国と開戦するわけにはいかない。
「そんなわけで、隣のサンライズ王国を訪ねる準備をしてくれる?」
「かしこまりました。3時間で終わらせます」
「いやいや、そこまで急ぎじゃないから、超パワーで超速を発揮しなくてもいいからね? いやまあ、アルム君なら、そんな無茶もできちゃうんだろうけどさ。無理はしなくていいよ」
「はい。では、ほどほどに急いで準備をします」
「ほどほどって、どれくらいかな? アルム君だと怖いな……」
ふと疑問に思う。
「しかし、ブリジット王女まで国を空けて大丈夫なんですか?」
「あ、そこは大丈夫だよ。もうすぐ父様が帰ってくるから」
「国王が? なるほど、それなら問題ありませんね」
「ただ……別の意味で問題が起きるかもしれないけどね」
ブリジット王女はそう言って苦笑するのだけど、この時、俺はその意味を理解することはできなかった。
後日、その苦笑の意味を理解するのだけど……
いやもう、本当に大変だった。
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