44話 お約束
とある屋敷の一室。
きらびやかな美術品が飾られた部屋に二人の男が笑みを浮かべていた。
商人のアラン・エグゼシアと、貴族のカイド・ユーツネスルだ。
「よくやってくれた、アランよ」
「はっ、もったいないお言葉」
「ヤツは相当参っているみたいだな? これで私達の言うことを聞くだろう」
「ヤツのうろたえようは傑作でしたね。やめてくれ、妻にだけは手を出さないでくれ……と、顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにして……」
「よせ、思い返させるな。笑えてくるではないか、はっはっは」
「ふふ、カイド様も悪ですね」
「なに、アランもな」
「……その話、しかと聞き届けたよ」
不意に第三者の声が響いた。
「何奴!?」
ゆっくりと、しかし確かな足音が近づいてきた。
この会合は誰にも知られていない秘密の会合のはずなのに、なぜ、第三者がいるのか?
二人は生唾を飲み込む。
そして、バーン! と勢いよく扉が開かれた。
「やあやあ、なにやら面白い話をしているみたいだね」
「……」
姿を見せたのはどこにでもいるような少女と、彼女に付き従う執事だ。
なぜ、こんなところに執事が?
それと……あの少女、どこかで見たような気が?
カイドは突然の驚きと疑問に囚われてしまい、すぐに言葉が出てこない。
代わりにアランが謎の二人組みを睨みつけて、鋭い声を飛ばす。
「何者だ、貴様! 無礼だぞ! この方を誰だと思っている!?」
「うーん、わからないな。誰?」
「ちっ、これだから下賤な民は……この方は子爵の位を持つ、カイド・ユーツネスル様だ! 本来ならば、貴様ごとき平民が顔を合わせることもできないのだぞ!」
アランが吠えて、
「落ち着け。今は、他に問題があるだろう」
カイドはあくまでも落ち着いていた。
二人の正体は不明だ。
しかし、今の話を聞かれたというのなら少し厄介だ。
口止めをしなければならない。
最悪、消すことも考えなければならない。
なに、問題はない。
アランが言ったように、自分は子爵なのだ。
それなりの権力を持ち、逆らうことができる者は少ない。
金と権力でねじ伏せてしまえばいい。
カイドはそう考えるものの、しかし、どこかで胸騒ぎが止まらない。
「貴様、我々の話を聞いたな?」
「そうだね、バッチリ聞いたよ。聞き届けたよ」
「ならば、今の話は忘れてもらおうか。でなければ痛い目に遭うぞ?」
「さて、それはどちらかな?」
「なに?」
「……カイド・ユーツネスル、私の顔を忘れたか?」
突然、少女の雰囲気が変わる。
息苦しさを覚えるほどの強烈なプレッシャー。
そして、自然とひれ伏してしまいそうな威光が輝いている。
なんだ、この少女は?
確かに見覚えはあるが、こうも無意識に従ってしまうような力を持っているなんて、いったい何者……?
戸惑うカイドに見せつけるように、少女はウィッグを外した。
「……ま、まさか!?」
ようやくカイドは思い出した。
目の前にいる少女の正体と、そして、絶対に逆らってはいけないことを。
「ブリジット王女!?」
「えぇ!?」
こんなところに王女がいるわけないと、アランが悲鳴をあげた。
カイドも同じく悲鳴をあげたい気持ちでいっぱいだ。
「ど、どうしてこのようなところに……」
「そんなことはどうでもいい。それよりも……なんの罪もない一般人を脅して、あろうことか、家族さえも刃を向ける。その目的は、ただ私腹を肥やすだけという愚かなもの。人間の所業ではなくて、悪魔……いや、家畜にも劣る畜生だ。恥を知りなさい!!!」
「ぐっ……」
「あなた達に人の心が少しでも残っているのなら、今すぐに自首しなさい!」
「うっ、ぐぐぐ……」
「か、カイド様ぁ……」
カイドは顔を青くした。
まさか、ブリジット王女に知られてしまうなんて。
彼女は第一王女なので、当たり前ではあるが自分よりも権力は上だ。
それに融通の聞かない生真面目な性格なので、賄賂で買収することもできない。
カイドは打開策を考えて……
しかし、どう考えても『詰み』であることを自覚した。
そして、やけっぱちになる。
「ええいっ、出会え出会え!!!」
カイドが叫び、それに応じて武装した兵士達が駆けつけてきた。
「皆の者、こやつはブリジット王女を騙る偽物! この不届き者を生かして返すな!!!」
「愚かだね……なら、引導を渡してあげましょう。そして、罪をその体に刻んであげましょう!」
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