43話 地上げ
店長曰く、1週間前から嫌がらせが始まったという。
先の二人組が来店して、酷い文句をつけて暴れたり。
店の前にゴミが捨てられるようになったり。
果ては、家族を尾行する輩も現れたという。
俺達はたまたま、その嫌がらせの現場に遭遇したみたいだ。
「嫌がらせを受ける心当たりは?」
「たぶん、地上げではないかと……」
「地上げ?」
「以前、店の土地を売ってほしい、という話を受けたんです。しつこく話が来て、でも、全部断ったのですが……」
「その後から嫌がらせが始まった、と?」
「はい」
なるほど、納得できる話だ。
金で手に入らないのなら力で追い出してしまえばいい。
悪人が考える手だ。
「むー……それは許せないね。嫌がらせをしている人の正体はわかる?」
「それが……土地の売買の話を持ちかけられた時も、その後も代理人名乗る方がやってきて、誰が背後にいるのかは……」
「アルム君、調べられる?」
「はい。ただ、少し日数はかかってしまいますが……」
その間に、さらなる嫌がらせに出られたらまずい。
「具体的に、黒幕を突き止めるのにどれくらいかかるかな? やっぱり、1ヶ月くらいかかっちゃう? 証拠も固めるとなると、それくらい必要だよね……」
「いえ、3日もあれば十分です。証拠も全て揃えてみせます」
「あ、相変わらず仕事が早いね……」
呆れているような感心しているような、微妙な顔をされてしまう。
「そういうわけだから、この件は私達に任せておいて!」
「しかし……いいんですか?」
「もちろん。困っている人がいたら、その人の力になるのが私の仕事だからね。このお店の料理が食べられなくなるなんて嫌だもん」
とても熱の入った口調だった。
「あ、ただ、なにが起きるかわからないから、3日間、店は閉じてほしいんだ。もちろん、その間の助成金は出すよ」
「あぁ……なにからなにまで、本当にありがとうございます!」
――――――――――
悪人を見つけるための視察に出たら、ちょっとした事件を見つけることができた。
人の良さそうな店長を助けるためにがんばらないといけない。
まず俺は、商人ギルドに登録されている商人の情報を徹底的に調べた。
地上げをするということは、そこで新しい商売を企んでいるに違いない。
なら、背後にいるのは商人。
あるいは貴族だろう。
そう考えて、まずは商人から調べている、というわけだ。
並行作業でシャドウに協力をお願いして、先の二人組の背後関係を洗ってもらう。
彼女は裏世界に長くいただけあって、そういった調査も得意だった。
あの二人組が、直接、黒幕と繋がっているとは思えないが……
仲介人を辿っていけば、いずれ黒幕に辿り着くだろう。
そんな感じで調査を進めることで、2日で黒幕らしき人物を突き止めることに成功した。
アラン・エグゼシア。
一代で大きな商会を作り上げた、やり手の商人だ。
最近、巨大な商店を作ることを目標にしているらしく、強引な地上げを行っているらしい。
それと……
カイド・ユーツネスル。
食堂の前で軽くすれ違った、例の貴族だ。
アランと懇意にしているらしく、ちょくちょく彼の屋敷を訪ねていた。
アランもまた、ちょくちょくカイドの屋敷を訪ねていた。
アランはカイドに賄賂を渡して……
そしてカイドは、アランの悪事をもみ消しているのだろう。
犯罪の手本というような共生関係だ。
「黒幕はこの二人で間違いないな。あとは、残りの1日で証拠をしっかりと固めよう」
「アルム君!」
慌てた様子でブリジット王女が資料室に飛び込んできた。
ただならぬ様子に自然と気が引き締まる。
「なにかありましたか?」
「店長さんの家族が……!」
――――――――――
「店長さん……!」
急いで病院に駆けつけると、憔悴しきった様子の店長がいた。
涙を流していて、目元は赤くなっている。
その視線の先は……手術室だ。
「奥さんが襲われた、って……」
「……買い物に出て、その帰り、あの二人組に」
店長が悔しそうに、とても悔しそうに言う。
「私が迂闊でした……妻を一人にせず、一緒にいるべきだった! あなたや王女様が忠告してくれたのに、店を開かなければ大丈夫と思い込んで……私が、私が!」
「……店長さん……」
ダメだ。
かける言葉が見つからない。
「ねえ、アルム君。なんとか奥さんを助けてあげることは……」
「……申しわけありません。俺は、治癒魔法は苦手で……」
「あ……そっか、そうだよね」
もっと練習をしておけばよかった。
苦手を克服しておけばよかった。
今更そう思っても手遅れだ。
「……」
「……」
「……」
長い、長い時間が経った。
誰も一言も発しない。
そして……
「先生、妻は!?」
手術室の扉が開いて、医師が姿を見せた。
慌てて尋ねる店長をなだめつつ、医師が笑顔で言う。
「もう大丈夫です、峠は超えました」
「あ、あぁあああ……よかった、本当によかった……ありがとうございます、本当にありがとうございます!」
どうにか最悪の事態は避けることができたみたいだ。
よかった。
なら、後は俺の仕事だ。
いや。
俺とブリジット王女がやるべきことだ。
「アルム君」
「はい」
「証拠を固めるのは明日までかかるんだよね?」
「3時間で終わらせます」
「うん、ありがとう。ごめんね、無理をさせて」
「いえ。俺も、ブリジット王女と同じ気持ちなので」
「じゃあ、それまでに準備をしておくね? 3時間後……証拠を固めると同時に、やるよ」
ブリジット王女は冷たく、凍えるような声でそう言うのだった。
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