表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/326

43話 地上げ

 店長曰く、1週間前から嫌がらせが始まったという。


 先の二人組が来店して、酷い文句をつけて暴れたり。

 店の前にゴミが捨てられるようになったり。

 果ては、家族を尾行する輩も現れたという。


 俺達はたまたま、その嫌がらせの現場に遭遇したみたいだ。


「嫌がらせを受ける心当たりは?」

「たぶん、地上げではないかと……」

「地上げ?」

「以前、店の土地を売ってほしい、という話を受けたんです。しつこく話が来て、でも、全部断ったのですが……」

「その後から嫌がらせが始まった、と?」

「はい」


 なるほど、納得できる話だ。

 金で手に入らないのなら力で追い出してしまえばいい。

 悪人が考える手だ。


「むー……それは許せないね。嫌がらせをしている人の正体はわかる?」

「それが……土地の売買の話を持ちかけられた時も、その後も代理人名乗る方がやってきて、誰が背後にいるのかは……」

「アルム君、調べられる?」

「はい。ただ、少し日数はかかってしまいますが……」


 その間に、さらなる嫌がらせに出られたらまずい。


「具体的に、黒幕を突き止めるのにどれくらいかかるかな? やっぱり、1ヶ月くらいかかっちゃう? 証拠も固めるとなると、それくらい必要だよね……」

「いえ、3日もあれば十分です。証拠も全て揃えてみせます」

「あ、相変わらず仕事が早いね……」


 呆れているような感心しているような、微妙な顔をされてしまう。


「そういうわけだから、この件は私達に任せておいて!」

「しかし……いいんですか?」

「もちろん。困っている人がいたら、その人の力になるのが私の仕事だからね。このお店の料理が食べられなくなるなんて嫌だもん」


 とても熱の入った口調だった。


「あ、ただ、なにが起きるかわからないから、3日間、店は閉じてほしいんだ。もちろん、その間の助成金は出すよ」

「あぁ……なにからなにまで、本当にありがとうございます!」




――――――――――




 悪人を見つけるための視察に出たら、ちょっとした事件を見つけることができた。

 人の良さそうな店長を助けるためにがんばらないといけない。


 まず俺は、商人ギルドに登録されている商人の情報を徹底的に調べた。


 地上げをするということは、そこで新しい商売を企んでいるに違いない。

 なら、背後にいるのは商人。

 あるいは貴族だろう。


 そう考えて、まずは商人から調べている、というわけだ。


 並行作業でシャドウに協力をお願いして、先の二人組の背後関係を洗ってもらう。

 彼女は裏世界に長くいただけあって、そういった調査も得意だった。


 あの二人組が、直接、黒幕と繋がっているとは思えないが……

 仲介人を辿っていけば、いずれ黒幕に辿り着くだろう。


 そんな感じで調査を進めることで、2日で黒幕らしき人物を突き止めることに成功した。


 アラン・エグゼシア。


 一代で大きな商会を作り上げた、やり手の商人だ。

 最近、巨大な商店を作ることを目標にしているらしく、強引な地上げを行っているらしい。


 それと……


 カイド・ユーツネスル。


 食堂の前で軽くすれ違った、例の貴族だ。

 アランと懇意にしているらしく、ちょくちょく彼の屋敷を訪ねていた。

 アランもまた、ちょくちょくカイドの屋敷を訪ねていた。


 アランはカイドに賄賂を渡して……

 そしてカイドは、アランの悪事をもみ消しているのだろう。

 犯罪の手本というような共生関係だ。


「黒幕はこの二人で間違いないな。あとは、残りの1日で証拠をしっかりと固めよう」

「アルム君!」


 慌てた様子でブリジット王女が資料室に飛び込んできた。


 ただならぬ様子に自然と気が引き締まる。


「なにかありましたか?」

「店長さんの家族が……!」




――――――――――




「店長さん……!」


 急いで病院に駆けつけると、憔悴しきった様子の店長がいた。

 涙を流していて、目元は赤くなっている。


 その視線の先は……手術室だ。


「奥さんが襲われた、って……」

「……買い物に出て、その帰り、あの二人組に」


 店長が悔しそうに、とても悔しそうに言う。


「私が迂闊でした……妻を一人にせず、一緒にいるべきだった! あなたや王女様が忠告してくれたのに、店を開かなければ大丈夫と思い込んで……私が、私が!」

「……店長さん……」


 ダメだ。

 かける言葉が見つからない。


「ねえ、アルム君。なんとか奥さんを助けてあげることは……」

「……申しわけありません。俺は、治癒魔法は苦手で……」

「あ……そっか、そうだよね」


 もっと練習をしておけばよかった。

 苦手を克服しておけばよかった。

 今更そう思っても手遅れだ。


「……」

「……」

「……」


 長い、長い時間が経った。

 誰も一言も発しない。


 そして……


「先生、妻は!?」


 手術室の扉が開いて、医師が姿を見せた。

 慌てて尋ねる店長をなだめつつ、医師が笑顔で言う。


「もう大丈夫です、峠は超えました」

「あ、あぁあああ……よかった、本当によかった……ありがとうございます、本当にありがとうございます!」


 どうにか最悪の事態は避けることができたみたいだ。

 よかった。


 なら、後は俺の仕事だ。

 いや。

 俺とブリジット王女がやるべきことだ。


「アルム君」

「はい」

「証拠を固めるのは明日までかかるんだよね?」

「3時間で終わらせます」

「うん、ありがとう。ごめんね、無理をさせて」

「いえ。俺も、ブリジット王女と同じ気持ちなので」

「じゃあ、それまでに準備をしておくね? 3時間後……証拠を固めると同時に、やるよ」


 ブリジット王女は冷たく、凍えるような声でそう言うのだった。

【作者からのお願い】


『面白い』『長く続いてほしい』と思っていただけたら、是非ブックマーク登録をお願いします。


また、↓に☆がありますのでこれをタップ、クリックしていただけると評価ポイントが入ります。


評価していただけることはモチベーションに繋がるので、応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://ncode.syosetu.com/n8290ko/
― 新着の感想 ―
[一言] 次回のアルムさん「仕事は今夜決行」 必○仕事人ですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ