40話 アニキ
ボクに名前はない
暗殺者に名前なんて不要だ。
強いて挙げるのなら、『シャドウ』という呼び名を持っていた。
絶対に捕えることはできず。
気がつけば影のように背後に忍び寄っている。
故に、シャドウだ。
自分でいうのもなんだけど、世界最強と自負していた。
それだけの実力があると誇っていた。
ただ一度の敗北もなく。
ただ一度の失敗もない。
依頼達成率は100パーセント。
それがボクの誇りだ。
人殺しを誇ってどうする?
そう非難する人もいるだろう。
でも、ボクは他になにもない。
家族も愛する人も友達も。
趣味も娯楽も。
楽しい記憶も笑った記憶も。
なにもない。
だからこそ、唯一持つこの力を誇るのだ。
それだけがボクに残された、たった一つの誇りだから。
「でも……ボクは負けた」
ブリジット王女の専属。
アルム・アステニア。
ただの執事にボクは負けた。
「って……いやいや、あれが執事なわけないよ」
ボクは殺しだけじゃなくて、隠密の技術も極めていた。
誰もボクを見つけることはできない。
隣に立ったとしても、ボクの存在を感知することはできない。
シャドウという呼び名はここからも来ていた。
それなのに……
アニキ……もとい、アルムさんはボクを見つけた。
そうすることが当たり前のように声をかけてきた。
あの時、ボクがどれだけ驚いたことか。
驚きすぎて失神しそうになったことは秘密だ。
余計な殺しはしない主義だ。
必要以上に恨みを買うと仕事がやりにくくなる。
ただ、見られたからには仕方ない。
殺す。
ボクは全力を出した。
しかし、アルムさんを殺すことはできなかった。
それならばと、とっておきの奥義を繰り出した。
文字通りの必殺。
勇者でさえ葬ることができると自信のある攻撃だ。
しかし、あっさりと防がれてしまう。
ならばこれしかないと、切り札である毒を使った。
生き物である以上、毒を防ぐ手段はない。
ボクもある程度のダメージを負う、自爆覚悟の最終手段だ。
しかし、やっぱりというか通じなかった。
「絶望って、ああいう瞬間のことを言うんだよね……今思い返しても身震いするよ」
なにをしても通じない。
どんな手を使っても倒すことができない。
惜しい、のではなくて、まったく手が届かない。
まるで大人と子供の戦いだった。
ボクは全てを出し尽くしたけど……
でも、アルムさんはまだまだ余裕があって、ボクを簡単にあしらっていた。
「あんな人、見たことないよ、ホント。ボクの上を軽々といくとかありえないんですけど。それでいて執事とか、なんかもう色々とおかしくて……魔王って言われたら、それはそれで納得したのに」
ボクは敗れた。
初めての敗北を知った。
でも……
アルムさんはボクを殺さなかった。
役に立つかもしれない、と。
王国の味方になるのなら、と。
ある意味でボクの命の恩人だ。
死を回避できただけじゃなくて。
新しい生きる意味を与えてくれた。
あの時、ボクは生まれ変わったと言っても過言じゃない。
なればこそ、これからは、この力はアルムさんのために使おう。
王国のために使おう。
それが、新しいボクの生きる意味だ。
「まあ……」
本音を言うと、もう二度とアルムさんと戦いたくないから。
あの恐怖。
あの絶望感。
いやもう、本当に二度と味わいたくない。
最強の暗殺者とか呼ばれていたけど、失神しそうになって、失禁しそうになったからね。
というか、実はちょっとしていた。
内緒です。
最後はもう、なりふりかまわず土下座して許しを請うたからね。
「アニキは怖いっす……がくがくぶるぶる」
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