39話 執事VS暗殺者
数日後。
夜。
「……っ……」
部屋で寝ていた俺はパチリと目を覚ました。
瞬間、もう頭はスッキリと晴れている。
秒で執事服に着替えて。
さらに、もう10秒かけて武装を整える。
「敵か」
とても静かな夜だ。
物音一つしない。
だからこそ、異質な存在が際立つ。
気配は完全に殺していた。
足音も立てていない。
ただ、ほんの少し。
本当にほんの少しだけ、呼吸する音が聞こえてきた。
生き物である以上、呼吸することは止められない。
魔法を使っても無理だ。
その呼吸の音がする方に向かう。
こんな夜中に息を潜めて。
気配も殺す存在なんて、怪しい以外の何者でもない。
外に出て、城の屋根に登る。
屋根を伝い気配がする方に進むと、そこは、ブリジット王女の寝室の近くだった。
「……」
影がいた。
全身を黒の衣装で整えて、夜の闇に紛れ込んでいる。
背は低い。
体も細い。
ただ、その身にまとう圧は相当なものだ。
ライオンが子猫のように思えてしまうほど、影は圧倒的なオーラを身に着けていた。
夜に潜む殺意。
まさに影。
「止まれ」
「っ……!?」
声をかけると、影はわずかに震えた。
見つかるとは思っていなかったのだろう。
「何者だ?」
「……」
「もしかして、お前が報告書にあった暗殺者……シャドウか?」
「……」
影は答えない。
答える口は必要ないとばかりに、両手に短剣を握る。
そして、問答無用で襲いかかってきた。
影の姿が消える。
と思ったが、一瞬の間に俺の背後に回り込んでいた。
速い。
でも、視認できないほどじゃない。
影は俺の首に刃を突き立てようとするが、しゃがみ、攻撃を避けた。
同時に体を回転させて、影の足を払う。
「ちっ」
影は舌打ちしつつ、姿を消す。
ただ、気配は残ったまま。
超速で移動して、一度、距離を取ったのだろう。
でも……
「やはり、視認できないほどじゃない」
「なっ!?」
横から狙い撃とうとしていた影を捕まえて、屋根に叩きつけた。
そのまま絞め落とそうとするが、スルッと逃げられてしまう。
タコみたいに柔軟なヤツだ。
でも、二度目はない。
「やるね」
初めてシャドウが話しかけてきた。
どこか楽しそうだ。
というか、女性だったのか。
体の線が細いからもしかしたら、とは思っていたが……
「ボクの攻撃を二度も避けて、そして、反撃をしてきたの君が初めてだよ。うん、素直にすごいと思う」
「それはどうも」
「でも、下手に強いから苦しむことになる……強者である君に敬意を評して、奥義で仕留めてあげるよ。さあ、刮目せよ。影分身!!!」
影から新しいシャドウが現れた。
その数、全部で十人。
「どうだ、これがボクの奥義、影分身だ」
「ただの残像とは違い、一つ一つに実体がある」
「同時に繰り出される十の斬撃、果たして避けることができるかな?」
シャドウは勝利を確信した様子で言うと、影を引き連れて一斉に動いた。
十のシャドウが俺の周りを駆け巡る。
それは、まるで嵐だ。
飲み込んだものを粉々に破壊する、絶対的な強者。
「ボク達の動きは見えない、理解できまい!」
「さあ、そろそろ終わりにしよう」
「ボク達の連携をその目に焼きつけて、そして、死ね!!!」
十のシャドウが同時に襲いかかってきた。
前から。
横から。
後ろから。
上から。
斜めから。
ありとあらゆる角度からシャドウが駆けてきて、両手に持つ短剣を振る。
それは、刃の嵐だ。
逃げるスペースはない。
全てを切り刻み、粉々にしてしまうだろう。
……当たれば、の話だけど。
「「「ぎゃあああっ!?」」」
十のシャドウが一斉に吹き飛んだ。
なにをされたか理解できない様子で、目を大きくして驚いている。
「な、なんだ……今、なにが……」
「単純に、カウンターを仕掛けただけだ」
「バカな!? ボク達は十の斬撃を同時に繰り出したんだぞ!? そんなこと、できるわけが……」
「同時と言っても、メインは一人だろう? そいつが他の影を操る。故に、どうしてもタイムラグが発生してしまう。ほんのわずかなタイミングだけど、ズレがあるんだよ。そこを狙って反撃すればいい」
「ば、ばかな……確かに、理屈上はそうなるが、1秒にも満たない瞬間のはずだ。それを見極めた……? しかも、初見で……? いったい、どんな動体視力と観察力を持っていれば、そんな化け物のような真似が……」
納得できない様子でシャドウは震えていた。
ただ、すぐに気を取り直した様子で勝ち誇る。
「で、でも、ボクの勝ちだ。こっそりと毒をばらまいていたことに気づいていないな? それも仕方ない。遅効性の毒で、無味無臭。なにをされたか理解できないだろう。しかし、気がついた時には手遅れだ。すぐに動けなくなり、やがて死に至る」
「で、その毒の効果はいつ出るんだ?」
「5分ほどで……いや、待って。もう5分経っているはず。それなのに、君、なんで動けるのさ? なんで死なない?」
シャドウが毒をばらまいていたこと、もちろん気づいていた。
でも、ここには俺しかいないので気にしなかった。
なぜなら……
「俺、毒は効かないからな」
「……なんだって?」
「執事だから、毒に対する訓練を受けているんだよ」
「そんな執事がいてたまるか!? 毒なんだぞ!?」
「だから、訓練したんだよ」
「訓練でどうにかなるものじゃないからね!? 人間の限界を超えているからな!?」
できたのだから仕方ないだろう。
「そもそも、適当な毒ではないのだぞ!? 一滴でゾウを殺すような猛毒なのだぞ!? それなのに、貴様、どうして無事でいられるんだ!?」
「執事だから毒に対する耐性も完璧だ」
「だから、そんな執事がいてたまるかぁあああああ!!!」
――――――――――
こうして、暗殺事件はあっさりと解決した。
今回の事件の首謀者はリシテア。
これで王国の外交カードが一枚、増えた。
いざとなれば事件をちらつかせて、有利に物事を進めることができる。
そして、肝心の暗殺者はというと……
「アニキ! どこに行くんですか?」
「え? いや、食事だけど……」
「ご一緒させてください! あ、箸を持ちましょうか? 料理を取ってきましょうか!?」
「いいから、そんなことしなくていいから」
これから先、暗殺者としてやっていく自信を完全になくした。
そう供述した暗殺者は改心して、なぜか俺の舎弟になると言い出した。
そうして、俺の周りをうろちょろするように。
どうしてこうなった?
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