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38話 暴走皇女

 ガシャーン!


 皇女の部屋に花瓶が割れる音が響いた。

 しかし、部屋の外にいる侍女達は気にしない。


 今日だけで三度目。

 いつものように癇癪を起こしているのだろう、と判断する。


 そして、それは正解だ。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」


 リシテアは肩で息をして、バラバラになった花瓶を睨みつけていた。


 腹立たしい。

 腹立たしい。

 腹立たしい。


 いつもなら何度か花瓶を投げていればスッキリしていたのだけど、今回は無理だった。

 どうしても、頭にとある人物達を思い浮かべてしまい……

 その度に怒りが急激にこみ上げてきて、火山の噴火のように爆発してしまう。


「アルムぅ……!」


 聖女のような優しい心で手を差し伸べたというのに、あろうことか、愚かな幼馴染はそれを振り払った。


 絶対に許せることではない。

 万死に値する。


 激怒するリシテアだったが、さらに彼女の感情を逆撫でる存在がいた。


 リシテアは、そっと頬に触れる。


「……まだ痛い」


 痛い痛い痛い。

 ブリジットにはたかれた頬が痛い。


「あの女……! このあたしに手を上げるとか、絶対に絶対に絶対に、ぜぇぇぇえええったいに許さないわっ!!!」


 リシテアの場合、全て自業自得である。

 頬をはたかれても仕方ないことをした。


 でも、彼女は自覚していない。

 なぜなら、いつでもどんな時でも、必ず絶対に究極的に自分が正しいのだから。

 そう信じて疑っていないのだから。


「あれから王国に変化はない……ということは、バカな騎士をぶつける、っていう策は失敗したわけね」


 バカな騎士というのはアルフレッドのことだ。


 なんの偶然か、リシテアは王国の外に出ていたアルフレッドと出会い、言葉を交わす機会を得た。

 これ幸いとあることないこと……いや。

 ないことばかりを吹き込み、彼に見当違いすぎる、妄想と呼べるような感情を抱かせることに成功した。


 うまくいけばブリジットとアルムに害を成すことができるだろう。

 失敗したとしてもこちらは痛くない。

 どちらに転んだとしても問題のない策ではあったが……


「ちっ……どいつもこいつも役に立たないわね。どうする? どうする?」


 爪を噛みつつ、リシテアは考える。


 あの生意気な王女に復讐したい。

 頬の痛みを万倍にして返してやりたい。


 そのための方法は……


「ふ、ふふふ……あんたが悪いのよ、ふざけたことをしてくれるから……そうよ、そう。あたしが正しい、あたしが正義なのよ。殺されたって文句は言えないわよね? ねえ?」




――――――――――




「んー……」


 ブリジット王女はいつものように執務に励んでいた。


 ただ、とある報告書を目にして、ピタリと手が止まる。


「どうかされましたか? なにやら悩んでいるみたいですが……」

「んー……よし、そうだね。アルム君にも見てもらおうかな」


 報告書を渡された。

 機密、と書かれていた。


「これ、読んで」

「……いつも思うんですけど、セキュリティーや情報保持の義務、薄くありません? ただの執事に機密文書を見せるなんて、ありえないと思うのですが」

「アルム君はただの執事じゃないよ? おかしな執事だからね」


 その認識はやめてほしい。


「あと、アルム君は私の専属で、家族みたいなものだからね! 隠し事なんて一切しないよ」

「隠し事とは、ちょっと違う気がするのですが……」

「アルム君は何度も助けてくれた。英雄と言っても過言じゃない。なによりも、私はアルム君のことを信じているから。理由はそれだけで十分さ!」

「……ありがとうございます」


 こうやって、不意打ちで嬉しい言葉を投げてくるのやめてほしい。

 たまに泣きそうになってしまう。


 我慢するが。


「拝見します」


 とにかくも書類に目を通した。


 最強の暗殺者『シャドウ』。

 世界を舞台にして、各地で暗殺を繰り返してきた。

 その依頼達成率は100パーセント。

 ただ一度の失敗もなく、ただ一度の敗北もない。

 故に、最強。


 そんな暗殺者が王国にやってきたかもしれない、という報告書だった。


「これは……」

「その反応、アルム君もシャドウを知っているんだね」

「裏世界では、あまりにも有名ですからね」

「……どうして執事が裏世界に詳しいのか、そこは追求しないでおくよ。とにかく……その暗殺者がウチにやってきたかもしれない。いや、やってきたと考えるべきだね。厄介だね。観光なんてことはないから、誰を狙っているのか……もしかしたら私かもしれないね」

「心当たりがあるんですか?」

「山ほど」


 気さくな態度故に忘れてしまいそうになるけど、彼女は王女だ。

 悪を許すことなく、正義を貫く人。

 盗賊のような悪人だけではなくて、不正に手を染める貴族を断罪したこともあるらしい。


 故に、敵も多い。


「もしかしたら、リシテアが雇ったのかもしれませんね。この前、頬をはたかれた仕返しに」

「ありえそう……でも、さすがにないかなー。シャドウを雇うのって、とんでもないお金が必要になるからね。ただの仕返しにそこまでしないでしょ、帝国がおかしくなっちゃうよ」

「そうですね、そこまでバカではないでしょう、彼女も」

「「あっはっは」」




――――――――――




 実際、リシテアはそこまでのバカだったのだけど、アルムとブリジットがそれに気づくことはない。

久々のリシテアでした。

まるで変わっていない……


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― 新着の感想 ―
こうも変わらないともはや救えないのかね・・ 端正させる為には労働して苦労しないと
[一言] 王女に対する最大のざまぁはクーデターの後孤島に流刑ですかね 殺すより生きて一人寂しく後悔させる方が地獄ですからね
[良い点] すごく文章が飽きなくて面白い! [一言] ブックマーク、評価以外に、何をすれば貴方への応援になることができるでしょうか? 評価をもっとしたい!し、この素晴らしい作品をみんなに知ってもらいた…
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