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35話 決闘

 数日後。

 騎士団の訓練場で決闘が行われることになった。


 円形の舞台があり、それを囲むように観客席がとりつけられている。

 武術大会なども行われるらしく、一般人も観戦可能になっているのだ。


「ふっ」

「きゃー、アルフレッド様ー! 素敵ー!」

「国に奇生する悪人を退治しちゃってください!」

「アルフレッド様なら一撃ですよ、一撃! かっこいいところ、お願いします!」


 アルフレッドが連れてきた、詳しい事情を知らない一般人が歓声をあげていた。

 城内に自分の味方がいないと悟り、外から味方を連れてきたのだろう。


「やっちゃえー、アルム君! ぶっとばせー!」

「姫、さすがにその言い方は……」

「えっと……おぶっとなしなさいませ!」


 俺の応援は、ブリジット王女と顔見知りの騎士が数名だ。

 みんな、仕事があるので仕方ない。

 というか、仕事があるのにここに来ているブリジット王女はダメだろう。

 後で説教だ。


「やあ、よく逃げなかったね。その度胸だけは褒めてあげよう。結果のわかりきった決闘に出ることは素晴らしいと思う。まあ、他に褒められてるところはないのだけどね」


 いつものように、アルフレッドはナチュラルで上から目線だ。

 ついでに、息を吸うようにこちらをけなしてくる。


 やめて、あまり煽らないで。

 俺はまったく気にしないけど、ブリジット王女がものすごい顔になっているから。

 視線だけで人を殺せるような顔をしているから。


「では、ルールの確認をしよう」


 審判役の騎士の立ち会いの元、アルフレッドがルールを並べていく。


「武器は木剣を使用。魔法の使用は禁止。戦闘不能、または審判の判断、あるいは本人が降参したら勝負はそこで終わり。リングアウトも敗北とみなす。ふむ……ルールはこんなところかな? なにか異論、質問はあるかい?」

「いや、問題ない」

「では、騎士の魂と誇りをかけた決闘を始めよう。言い忘れていたが、僕が勝った場合は、君にはブリジット王女の専属をやめてもらう」

「俺が勝った場合は?」

「はははっ、そのような事態は万が一にもありえない。ありえない話をしても無意味じゃないかい?」

「万が一が起きるかもしれないだろう?」

「やれやれ、このような状況で、相手との力量差が見抜けないとは。つくづく、君は愚かだな。救いようがないほどの頭の回転の悪さと、諦めの悪さ。もはや醜い。せめてもの情けだ。その腐りきった性根を、この僕が直々に叩き直してやろうではないか!」


 だから俺が勝った場合の……もういいか。

 本当、人の話を聞かないヤツだ。


「では……はじめ!」


 審判の騎士の合図で決闘が開始された。


「さあ、僕の華麗な剣技に溺れたまえ!」


 開始と同時にアルフレッドが前に出た。

 駆けた勢いを乗せて突きを放ち、それを起点として、連続攻撃を繰り出してくる。


 右から左。

 上から下。

 途中で跳ね上がり、逆の角度へ飛ぶ。


 剣撃の嵐と呼ぶべきか。

 それほどまでに激しい攻撃だ。


「す、すごい……あいつ、性格はとんでもないけど、剣の腕だけは確かなんだよな」

「俺、あの攻撃を防ぐ自信はないな……」

「俺も……速いだけじゃなくてパワーがあって、一撃一撃が重いから、防ぐことができたとしてもすぐに手が痺れてダメになるんだよな」


 そんな騎士達の声が聞こえてきた。

 それを受けて、アルフレッドがニヤリと笑う。


「どうだい、僕の剣は? 初撃で沈まないのは褒めてやるが、いつまで耐えられるかな? はははははっ! さあ、さらに加速するぞ!」


 ふむ。

 今のが本気ではない、ということか。


 それは当然だよな。


「ま、まだ上があるのか!?」

「やばい、このままではアルムさんが……!」

「もう遅い! 僕の攻撃は止まらない、悪を滅するまで止まることはないのさ! さあさあさあっ、僕の前にひれ伏すがいい! さあ、ここからどんどん速く、重くなっていくぞ!!!」


 アルフレッドの剣撃はさらに速度を上げた。

 風を斬り、音を置き去りにする。

 その剣技に飲み込まれている様子で、観客は言葉を失っていた。


 ただ、俺は特に気にしていない。


 音を消してしまうほどの剣撃。

 でも、そんなものは見慣れている。

 小さい頃、両親に突き落とされた死の谷では、そんなものは当たり前だった。


 遅い。

 とにかく遅い。

 これはやはり……手を抜かれているのだろう。


「くっ……」


 やがて、アルフレッドの顔に焦りの色が浮かぶ。


「な、なぜだ、なぜ当たらない!? こんなにも避けられるなんて……ありえない、こんなことはあってはならないぞ!? この僕が……!」

「そこだ」


 カァンッ!


 乾いた音が響いた。

 それは、俺がアルフレッドの木剣を弾く音だ。


 木剣がくるくると宙を舞い、カランとリングの上に落ちる。


「止まったぞ」

「え? あ?」

「攻撃、止まらないんじゃないのか?」

「っ……!!!」


 アルフレッドは顔を赤くしつつ、慌てて剣を拾う。


「本気じゃないんだよな?」

「な、なに……?」

「今の攻撃、もちろん本気じゃないよな? 執事である俺が防ぐことができたんだ。どう考えても、手を抜いていたとしか思えないが……」

「そ……そうだっ、その通りだ! い、いくら悪人でも、いきなり本気を出すのは可哀想に思ってな。そう、手を抜いていたのさ!」

「そうか、納得だ。あまりにも遅く、軽かったからな」

「は?」

「剣はあくびが出るほどに遅い。力も片手以下で十分。いくらなんでも手を抜きすぎだろう? 本気で来い」

「っ……!!!?!?!?」


 なぜか、アルフレッドが再び真っ赤になった。


「……あのさ」

「な、なんでしょう、王女?」

「アルフレッドの様子を見ると、あれ、本気を出していたんじゃない?」

「え? いや、しかし、アルム殿はああ言っておりますが……」

「アルム君だよ? あのアルム君だよ? アルフレッドの本気を、手加減されている、って勘違いしてもおかしくないんじゃない? たぶん、二人の間にはそれくらいの差があるでしょ」

「あぁ……なるほど、その可能性はありますね」


 ブリジット王女と騎士達は妙な会話をしていた。


 アルフレッドが手を抜いているというのは、俺の勘違い。

 彼は本気を出しているという。


 いや、まさか。

 そんなことがあるわけがない。

 だとしたら……


「あまりに弱すぎるじゃないか」

「しっ……ねぇえええええ!!!」


 なぜかアルフレッドがブチ切れていた。

 大丈夫か? 血管、切れていないか?


 この決闘、別の意味で心配になってきたな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ナチュラルに馬鹿を煽る…。相手が馬鹿で思い込みの激しい馬鹿の独善主義の偽善者で馬鹿だから、ざまあみろ! [気になる点] アルムさんの両親…。 1.ちゃんと愛情があって、でも不器用で常識知ら…
[一言] >アルム君だよ? あのアルム君だよ?  地味にヒドい(笑)
[一言] アルム君ならこんな相手、木剣使わなくても手刀で倒せそう
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