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332/333

331話 待ち受けて、耐えて

「……と、いうような状況でした」


 翌日。


 偵察で得た情報をまとめて。

 ブリジット王女の執務室に足を運び、報告をする。


「うーん……」


 報告を受けたブリジット王女は難しい顔に。


 それもそうだろう。

 それなりの情報を手に入れることはできる。

 ルーベンベルグはほぼほぼ黒で、なにかしらよからぬことを企んでいる。


 『アレ』と言っていたのは、たぶん、リットのことだろう。

 他に心当たりがない。


 ただ、リットを利用してなにを企んでいるのか?

 肝心の部分が不透明なままで、なかなか次の行動に迷うところだ。


「……ルーベンベルグ卿が口にしていたっていう『アレ』って、リットのことだよね? たぶん」

「おそらくは」

「リットを利用して、なにか悪いことを企んでいる……たぶん、王家が絡んでいるかな? ルーベンベルグ卿は野心でいっぱいというか、今の地位で満足していないみたいだからね。宰相などの座を狙って……ううん。もしかしたら、王家そのものを狙っているのかも」

「……冗談でしょう?」


 一介の貴族が王になる?

 普通に考えてありえない話だ。


 ルーベンベルグが百年に一度の逸材で。

 フラウハイム王国が衰退して、王家に対する信頼が失墜している。

 ……その二つの条件が揃っているのならば、あるいは、となるが。


 しかし、そのようなことはない。

 ルーベンベルグは、調査の範囲内ではあるが、ただの凡人。

 突出した能力はなく、血筋で今の地位を得たようなもの。


 フラウハイム王国は安定。

 民からの信頼も勝ち取り、なにも問題はない状態だ。


「ルーベンベルグが王の座につくようなことは、天地がひっくり返ってもありえないと思うのですが」

「アルム君もなかなか言うね。でも、私も同意見。あの人にそこまでの器はないよ」


 ブリジット王女もなかなか言う。

 ただ、それが正しい評価なのだろう。


「過ぎた野心に取り憑かれているだけ。いずれ、破滅するよ」

「とはいえ、そういう輩は厄介です」

「うん……そうなんだよね」


 ブリジット王女は、とても困った様子で深いため息をこぼした。


 小悪党なら、考える悪事も大したことはない。

 力を示せばすぐにおとなしくなる。


 ただ、中途半端に悪知恵を身につけた悪党は厄介だ。


 悪知恵を働かせたとしても、そこまでの脅威ではない。

 大抵がつまらない策を巡らせるだけで、わりとすぐ看破することができる。


 問題は、自暴自棄になること。


 もう後がない。

 どうしようもない。

 破れかぶれで一矢報いるしかない。


 そんな考えを持たれ、暴走してしまうことが多いと聞く。

 俺も、そういう輩をよく見てきた。

 昔、まだリシテアの側にいた頃、山程そういう輩はいた。


 時に、自爆をしようとして。

 時に、異質な存在の力を借りようとして。


 そして……

 周囲のことを考えることなく、民を巻き込もうとする者もいた。


 ルーベンベルグがそこまでの愚か者かどうか、それはなんとも言えないが……

 そうなる可能性も考えて対策を練った方がいいだろう。


「アルム君はどうしたらいいと思う?」

「そうですね……」


 ここに来るまでの間、そう聞かれることも想定して、考えをまとめておいた。

 改めてその考えに問題はないか頭の中で検証しつつ、ゆっくりと答えていく。


「敵の目的は不明。可能性の問題ではありますが、あまりに追い詰めすぎると厄介な事態を招くことも。今のところ、敵に都合がよく、我々にとっては都合が悪い状況です」

「うん、そうだね」

「なので……いっそのこと、ルーベンベルグのやることなすこと、全て叶えてやるというのはいかがでしょう?」

「全て……?」

「もちろん、最後の最後まで成し遂げさせる、というわけではありません。敵の策を受け入れて、そのまま自由と行動を許す。なにもかも全てうまくいっている……そう思わせて油断させたところで、一気に反撃を。うまくいっているため、敵は反撃を想定していない、しづらい状況になるでしょう。それならば大きな動揺を誘えるはず。その隙に電撃的なカウンターを繰り出して、一気に制圧……いかがでしょう?」

「……なるほど」


 ブリジット王女はしばし黙考する。


 ややあって、一つ頷いた。


「うん、それでいこうか」

「はい」

「ただ、リットの安全が一番。そこに関しては敵の思い通りにさせたらダメ」

「もちろんです」

「うん、よかった。さすがアルム君、私の考えていることをきっちり理解してくれているね」

「それが執事の役目ですから」

「……執事、っていう理由だけ?」


 ふと、ブリジット王女が甘えるような視線をこちらに向けた。

 頬が少し赤い。


 えっと……


「……恋人だから、という理由もあるかもしれません」

「えへへ♪」


 にへら、と嬉しそうに笑う。


 よかった。

 これで正解だったようだ。


 しかし……


「……やや恥ずかしいですね」

「慣れて♪」


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― 新着の感想 ―
ブリ様色々やる気満々ですね(笑)
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