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331/333

330話 限りなく黒に近いグレー

「……そ……ふむ。つまり……」


 魔道具が声を拾った。

 自然と心が引き締まる。

 ヒカリも表情を引き締めていた。


「……ふむ。そうか」


 最初、やや聞こえづらかったものの……

 俺達が持つ、受信側の魔道具の調整をすることで、すぐに声がクリアになった。


「アレは王城にいる……そういうことだな?」

「はい。ほぼほぼ間違いないかと」

「本当か?」

「ブリジット王女や例の執事が一緒だったこと。それを考えると、他に可能性はないでしょう。もっとも、王城の警備は相当に厳重なため、直接的な確認はできていませんが……」

「……ふむ。そうなると、先の一件は千載一遇のチャンスだったか。ちっ……もったいないことをしたな」


 片方の声は、ルーベンベルグのもので間違いないだろう。

 事前に声を確認しておいたから聞き間違えることはない。


 もう一人は……


『アニキ』


 ヒカリは、声を発することなく、唇だけを動かして言葉を伝えてくる。

 読唇術でそれを読み取る。


『相手に心当たりあるっす』

『誰だ?』

『裏世界の有名人っす。殺しだけじゃなくて、お金さえもらえれば、悪いこと、なんでもやるような』

『間違いないか?』

『以前、叩きのめしたことがあるので、間違いないっす。ハッキリ覚えているっす』


 さらりと、とんでもないことを言うな。


 今は、こうして落ち着いたものの……

 かつて、最強の暗殺者だったということを思い出した。


「アレを奪取することは?」

「……できないとはいえませんが、絶対と断言することは無理です。失敗のリスクはそれなりにあると考えてください」

「くそっ」


 椅子を蹴るような音。

 苛立っている様子だ。


「……では、さらに用意することは?」

「それも難しいでしょう。アレは、彼らの協力を得て完成したもの。その技術を伝えられたわけではなくて、我々は、ただただ指示されていただけ。独自で、となると、どれだけの月日がかかるか……最悪、なにもできず失敗に終わるでしょう」

「ちっ……」


 舌打ち。

 次いで、再び椅子を蹴るような音が響いた。


 なかなか荒れているようだ。

 悪巧みをして、思うようにいかないことに腹が立っているようだが……


 いったい、どのようなことを考えた?

 なにを企んでいる?


 そこをうまいこと話してくれればいいのだけど……

 さすがに、そうそう都合よくいかないか。


 さらに盗聴を続けるものの、二人の会話から得られるものは少ない。

 ギリギリの会話をしているのだけど……

 肝心の部分に触れることはなく、大きな手がかりを得ることができない。

 なかなかにもどかしい。


「これからどうしますか? 現状、後手後手に回っていますが。もっとも、それが致命的な失敗というわけではなくて、大きな失敗というわけでもありません。いくらでも挽回は可能と思われますが?」

「……その通りだが、しかし、なにも進展がないのも確かだ。のんびりと進めたくはない。それに、そのようなことになれば、連中に悪い印象を与えるかもしれない。現時点で、連中を敵に回したくない」

「確かに」

「危険は孕んでいるが……賭けに出る必要があるかもしれないな」

「と、いうと?」

「さらってこい」

「ふむ……リスクは承知の上、というわけですね?」

「このままではジリ貧だ。ならば、リスクがあろうと、リターンを求めて動くしかないだろう」

「……わかりました。あなたがそう言うのならば、私は従いましょう」

「できる限りの支援はする。必要なものは用意しよう。部下も好きに使っていい」

「対象は無傷で?」

「……少しくらいなら怪我をさせても構わん。手に入れられるのなら、強引に出てもいい」

「了解しました」

「頼んだぞ。必ず、アレを手に入れてこい……そして私は、アレの力を使い成り上がってみせる。このようなところで終わる男ではないのだ、私は」

「はい、おおせのままに」


 響く足音。

 声が遠ざかる。

 隠し部屋から離れたみたいだ。


「……ふむ」


 得られる情報はこれで全部だろう。

 これ以上、欲張ろうとすればルーベンベルグに勘付かれてしまう可能性がある。


 肝心な情報を得ることはできていない。

 もどかしくはあるが……


「これ以上はまずいな」

「撤退っすか?」

「ああ。魔道具を回収した後、屋敷を離れるぞ」

「ラジャーっす」

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