33話 ライバル出現?
「やぁ」
夜。
風邪も完治して、いつものように一日の仕事を終えて自室に戻る途中、若い騎士に声をかけられた。
背は俺よりも高く、鎧に包まれた体はしっかりと鍛えられている。
それでいてしなやかな筋肉を持っていて、とても強い力を持つことが窺えた。
また、顔も綺麗に整っていた。
街を歩けば、ほとんどの女性が振り返り、目を止めてしまうだろう。
美男子の騎士……絵になる人だ。
「君が、アルム・アステニアかな?」
「はい。あなたは?」
「僕は、第七部隊の隊長を務めるアルフレッド・イージスさ。気軽に名前で呼んでくれ」
「はぁ……では、アルフレッド様は俺になにか用でしょうか?」
「なに。王女を救い、辺境の村を救った英雄の顔を見ておきたいと思ってね。握手をいいかな?」
「えっと……はい、どうぞ」
差し出された手を握る。
すると、アルフレッドはなぜか落胆した顔に。
「剣ダコのない綺麗な手だね。それに腕も細い……やれやれ、君が王女を助けたというのはつまらないデマだったようだ」
「はぁ」
「大方、今の地位を確保したいため、つまらない工作をしたのだろうね。本当につまらないことをしてくれる。君のような男が王女の専属であることを、僕はとても不快に思う」
「……つまり、なにが言いたい?」
この男に丁寧語は必要ない。
そう判断して、やや強い口調で問いかけた。
「簡単な話さ。今すぐ王女の専属を辞めるがいい」
「なぜ?」
「なぜ? なぜと問いかけたのかい? そんなこと聞くまでもないだろう。金か脅しか。方法はわからないけれど、君は汚い手段を使い、今の地位を得た。そして、その地位を守るためにつまらない嘘を吐いている。そのような男が王女の専属にふさわしいわけがないだろう? 君にふさわしい仕事は、街のゴミを拾うことで己の心を綺麗にすることだね、はははっ!」
ケンカを売られているのだろうか?
ただ、アルフレッドから強い敵意を感じることはない。
嫌がらせとかではなくて、本心からこんなことを考えていて、そして、こうすることがブリジット王女のためになると信じている様子だった。
なるほど。
自分の言うことが全て正しいと思う、『正義の味方』か。
「今なら穏便に済ませてあげよう。己の悪事がバレる前に手を引いた方がいい。なによりも困るのは、君自身だよ? 自身の力量を遥かに超える手柄を吹聴していたら、いざという時、困難に立ち向かうことができず、手痛い目に遭うことになるからね」
「悪いが、余計なお世話だ。俺はブリジット王女の専属を辞めるつもりなんて欠片もない。これからも、あの方の力になり、尽くす」
「ふむ。その言葉は立派だが……しかし、所詮は力なき者の戯言。保身に走っているようにしか感じられないね」
「なら、どうする?」
「今はなにも」
アルフレッドは不敵に笑う。
その笑みには自信があふれていた。
「ただ、この僕が帰ってきたからには、君の悪事はここまでだ。そう遠くないうちに断罪することを予告してあげよう。それが嫌ならば、今すぐに荷物をたたむことだね。はははっ!」
勝手に言い放ち、アルフレッドはどこかへ消えた。
――――――――――
「うーあー……マジでごめん。ごめんなさい……めっちゃごめんなさい」
遅い時間ではあるが、無視できない話と判断してブリジット王女の部屋に戻る。
そして事の顛末を説明すると、ぱんと両手を合わせて謝罪されてしまう。
「いえ、ブリジット王女が謝ることでは……」
「いやー、部下の不始末は私の不始末。監督不行き届きで、なんかもう、ごめんとしか言えないよぉ……テヘペロ♪ でごまかそうとか、できるわけないよ……とほほ」
今回のことはブリジット王女も予想外だったらしく、ものすごく驚いていた。
「そもそも、彼はいったいなんなんです?」
「第七部隊の隊長を務める、将来有望の若き騎士。実力は確かで、だからこそ若いけど隊長になることができた。できたんだけど……ちょっぴり思い込みが激しいというか、人の話を聞かないというか」
あれがちょっぴりだろうか?
まあ、ブリジット王女としても部下をかばいたい気持ちがあるのだろう。
「前々から、ちょくちょくやらかしていたんだ。人相が悪いっていうだけで、愛妻家の人をDVしているって決めつけて、問答無用で逮捕しようとしたり。おばあさんの荷物を持ってあげた若者を、泥棒と勘違いして逮捕しようとしたり」
「それ、大丈夫なんですか……?」
「ダメだよ、ダメ。アウト。めっちゃアウト。アルフレッドがやらかして、その度に私や他の騎士がフォローして……それでも一向に改善されないから、騎士の心を一から学び直してこい、っていうことで遠方に送っていたの。最近、帰ってくるっていうことは聞いていたんだけど、まさか、帰ってくるなりアルム君にいちゃもんつけるなんて……」
そこでブリジット王女が悪い顔になる。
光のない瞳で、ぶつぶつと静かに呟く。
「私のアルム君にケンカ売るとか、舐めているのかな? 舐めているよね? いや、マジで許せないわ、これ。ライン超えたよ? 超えたよ? 王族の力、見せてあげましょうか。ふふふ、まずは徹底的に追いつめて、身も心も粉砕して……うふっ、ふふふ♪」
「いえ、あの……とりあえず落ち着いてください」
ものすごく悪い顔で静かに笑わないでほしい。
ブリジット王女がそれをやると、悪の女幹部という感じでものすごく怖い。
「あっ、ごめんね。ついつい本音が」
「本音なんですね……まあ、それはともかく。これからどうしましょう?」
「もちろん、アルム君は私の専属を辞める必要はないよ。アルフレッドの言うことは気にしないで」
「かしこまりました」
「私からアルフレッドに言っておくけど……うーん、あの人、本当に思い込みが激しいんだよね。私が言っても聞かないこと多いから、どうしたらいいのやら……はふぅ」
「問題児なんですね」
「かなりの、ね」
ブリジット王女が苦笑した。
「さしずめ、アルム君のライバル、っていうところかな?」
「……あんなライバルは欲しくないですね」
「だよねー」
今度は俺も苦笑した。
「とりあえず、アルム君はなにも気にしないで、今まで通りでお願い。アルフレッドがなにか言ってきても、全部無視していいから」
「わかりました」
「あとは、アルフレッドがこれ以上の問題を起こさないように、なるべく早いうちにアルム君がすごいっていうことを理解してもらわないとだけど……うーん、どうしよう?」
悩みの種を持ち込んでしまい、申しわけない気持ちでいっぱいだ。
というか……
アルフレッドという騎士は、これまでもブリジット王女を困らせていたのか。
臣下がするべきことじゃない。
いざとなれば俺が対応するしかないか。
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