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321話 リットちゃん観察日記

・その1

 いつものようにリットは無表情、無感情だ。

 話しかければ返事はあるものの、それ以外で自分から声を発することはない。


 よく中庭にいる。

 ただ、なにかをしているわけではない。

 ぼーっと、ただ木々や花を眺めている。

 植物が好きというよりは、ただ時間を潰しているだけのように見えた。



・その2

 リットが猫を拾った。

 なにかしらの変化があるかもしれない、と期待して許可した。


 意外というべきか、リットはちゃんと猫の世話をしていた。

 餌をあげて、一緒に遊んで、優しくする。

 当たり前のことだけど、リットには難しいと思えていた。


 ただ、リットはちゃんとこなしていた。

 ヒカリのサポートが必要になることが多いが……

 自分から役目を放棄するようなことはない。


 とはいえ、その時も無表情。

 言葉のやり取りは最低限。

 やはり、リットがなにを考えているのかわからない。



・その3

 リットが猫を拾い、一週間が経った。

 猫はすっかりリットに懐いていた。

 彼女を母親のように思い、甘えている。


 軽く調べてみたが、母猫らしき猫が城から少し離れたところで死んでいるのを見つけた。

 獣、あるいは魔物に襲われたような傷があった。

 我が子だけは、その身を呈してかばい、逃がしたのだろう。


 リットが子猫の母親役をやる……

 とてつもなく不安だ。


 本当に大丈夫だろうか?

 ヒカリも同じ懸念を抱いたらしく、ちょくちょくリットのところに顔を見せて、猫の世話について色々とアドバイスを送っていた。

 詳しい。


 ヒカリは猫好きだったみたいだ。

 任務の都合上、なかなか飼うことは難しいが……

 いつか!

 と夢見て、色々と知識を蓄えていたらしい。


 猫を通じて、ヒカリとリットが仲良くなり。

 話を聞きつけたシロ王女やパルフェ王女がリットのところに足を運び、仲良くなり。

 さらに、城で働く人々も彼女のところへ。


 人と人が繋がる。

 それは輪のように広がり、大きく変化していく。


 その中心にいるリットは、なにを思うのだろうか?

 なにを感じているのだろうか?


 まだまだ彼女についてわからないことは多い。

 注意深く監視を続けていこう。


 ……ただ。


 悪い子ではないのかもしれない。




――――――――――




「……ふぅ」


 日記を書き終えて、小さな吐息をこぼした。


 ここ最近の日記はリットに関することばかりだ。

 これでは日記というよりは報告書。

 事実、ブリジット王女などに挙げる報告書も似たような内容だ。


「今のところ、なにも問題はない……事件が起きることもない。トラブルもない。異変の兆候もない。なにもない……か」


 ブリジット王女そっくりのリット。

 なにかしらの事件の前触れかと思ったが、そんなことはないのだろうか?

 それとも、これから先に起きるだけで、まだ油断してはいけない?


「油断しないのは当然だが……読めないな」


 リットがただの他人の空似なんてことはないだろう。

 どこかでブリジット王女と関わりがあるはず。


 良い意味でも、悪い意味でも。


 なにかが隠されている。

 しかし、その秘密を解き明かすことができない。


 とても巧妙に隠されている、というよりは……

 手がかりがあまりにも少なすぎる。


 リットのことを調べても空振りで、なにも情報を得られず。

 目撃情報など、周囲のことを調べてみるものの、やはり空振り。

 手がかりがほとんどなく、調査は迷子に陥っていた。


「通常、ここまで手がかりが出てこないなんてことはない。欠片くらいはあるはずだ。それすらもないということは……」


 もしも、リットを使い、なにかしら企んでいる者がいたとして。

 その者にとって、今回のことはイレギュラーなのではないだろうか?


 想定外のトラブル。

 故に、リットをまったくコントロールできていない。

 だから、まったくといっていいほど手がかりが出てこない。


 当然だ。

 向こうにとっても予想外のことなのだから、証拠なんて残らない。

 どこかに手を加えていないから、手がかりが残らない。


「だとしたら、今、俺達は優位に立っているのかもしれない。慎重に動けば、大きなアドバンテージを得られるかもしれないが……とはいえ、これも『敵』がいるという想定が正しい前提だから、なんとも言えないか」


 今はだた、できる限りの調査をしつつ、様子を見るしかない。

 もどかしい。


「……ただ」


 最近のリットの様子を振り返り、思う。


 できることなら、リットは平穏な生活を送ってほしい。

 そんなことを思うくらい、彼女に親近感を抱くようになっていた。

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― 新着の感想 ―
めっちゃ絆されてますがな(笑)
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