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32話 失敗してしまった……

「……んぅ……」


 気がつくと、妙に豪華なベッドに寝ていた。


 俺の部屋じゃない。

 ここはどこだ?


 体を起こそうとして、


「うっ……」


 激しい目眩に襲われてしまい、再び枕の上に戻ってしまう。


「あっ!?」


 視線を動かすと、すぐ近くにブリジット王女がいた。

 慌てた様子で駆けよってくる。


「アルム君、起きた!? 大丈夫!?」

「えっと……いったい、なにが……」

「アルム君、風邪を引いちゃったんだよ。それで倒れて……」


 風邪?


 心当たりはある。

 七徹の半ばくらいから、妙に体が重くなっていた。

 王国に来て以来、七徹はもちろん普通の徹夜もしていなかったから、体が弱っていたのかもしれない。


 まいったな。

 七徹しても問題ないくらい、鍛え直さないと。


「倒れちゃうから、ものすごく慌てたんだよ。それで、私の部屋のベッドに運んだの」

「それは……大変失礼しました。すぐに……」

「ダメ、ダメだからね!? まだ熱がすごくあるんだから! さっき測ったら、四十度を超えていたよ!?」

「問題ないですね。執事なら、四十五度まで耐えられますから」

「それはもう人間の限界を超えているよね!?」

「帝国にいた頃、熱を出した時は、気合でなんとかしろと言われていたので。あと、体調不良は甘え。自己管理できない自分の責任、とも」

「そんな典型的なブラック国家を参考にしないで……ああもう、とにかくアルム君はここでおとなしくしていること! これは王女命令だよっ」

「……わかりました」


 そう言われたら逆らうことはできない。


 正直、体が重く、あまり頭も回らない。

 素直に休ませてもらうことにした。


「それで……おかゆを作っているんだけど、食べられそう? 薬を飲むにしても、なにかお腹に入れておいた方がいいから」

「えっと……少しなら大丈夫です」

「よかった。ちょっとまっててね」


 ブリジット王女は鍋を持ってきて、中に入っていたおかゆをスプーンですくう。

 そして、ふーふーと冷ましてからこちらの口元に差し出してきた。


「はい、あーん」

「いえ、あの……自分で食べられますが」

「あーん」

「えっと……」

「あーん」

「……あーん」


 圧と粘り強さに負けて、ぱくりとおかゆを食べた。


「どう……かな?」

「もしかして、これ、ブリジット王女が?」

「うん。城の料理長に頼んで、教えてもらいながら作ったから、壊滅的にまずいってことはないと思うんだけど……」

「おいしいですよ」


 シンプルな卵のおかゆだ。

 味付けはシンプルに塩のみ。

 でも、米と卵の旨味を最大限に引き出していると思う。


 それにほどよい熱さで、食べていると体がぽかぽかと温まってくる。

 風邪を引いて弱っている時でも、ぱくぱくと食べることができる。


「よかった、うまくいって」

「そんなことを言うってことは、ブリジット王女は料理が苦手なんですか?」

「んー、どうだろう? 苦手というか、今まで作ったことがないから、わからない、かな」


 そういえば、日頃の言動で忘れがちになってしまうが、彼女は王女だ。

 自分で料理なんてするわけがない。


「なら、今回はどうして……」

「私がアルム君に無理をさせちゃったから、どうしても、私がなにかしてあげたくて……」

「……ありがとうございます。それなら、無理をした甲斐があったかもしれませんね」

「もう。無理をして倒れて、それを喜んだりしないで。私がどれだけ心配したか」

「申しわけありません」


 ただ……

 今はこうして、ブリジット王女を独占している。


 風邪を引いてしまったことは情けないが、でも、これはこれでいいかも、なんて悪いことを考えてしまう。


「早く元気になってね、アルム君」

「はい、がんばります」

「元気になるまで、私が看病するから」

「いえ、それは……」

「すーるーかーら!」

「……ありがとうございます」


 圧に負けた。




――――――――――




 その後、俺は3日間の静養を取り……

 その間、ブリジット王女に看病をしてもらった。


 おかげで完全復活。

 彼女には感謝してもしきれない。


 そう伝えると……


「なにいってるの? 私の方が、いっぱいいっぱい、いーーーーーっぱい、アルム君に感謝しているんだからね♪」


 なんて、笑顔で言われてしまうのだった。

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[良い点] どっかから、爆ぜろ!とか聞こえて来そう。
[一言] 若いうちの無理は年取ってからガクンと来るから気を付けないと・・・あ、そういう話じゃない? いいですねぇ、この微妙な距離感のもどかしさ。もっと行けという気もしつつこの二人ならまだこのくらいでし…
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