316話 セカンドお姉様
「ねえねえ、セカンドお姉様はどう思う?」
「どう……?」
「この発明品! えへん、シロちゃんの自信作なのです♪」
「……???」
「素直に思ったところを聞かせてほしいな」
「思ったところ……」
「わくわく、どきどき」
「……コンパクト?」
「そこかー……」
先日と同じ中庭。
そこで、シロ王女とリットを見かけた。
シロ王女とリットが、なにげない話をしているみたいだが……
「シロ王女、リット」
「あ、お兄ちゃん!」
シロ王女は笑顔を浮かべて、嬉しそうにこちらに抱きついてきた。
一方のリットは、視線はこちらに寄越すものの、それだけ。
ぼーっとしたままだ。
「なにをされていたのですか?」
「新しい魔道具ができたから、セカンドお姉様に見てもらおうかな、って」
「……見てた」
リットが、その通りと頷いた。
魔道具のことは気になるが……
今、それ以上に気になる単語が出てきたな?
「えっと……セカンドお姉様、というのは?」
「二人目のお姉様だから、セカンド!」
シロ王女がドヤ顔で言う。
自分のネーミングセンスを自分でかっこいいと思っているのだろう。
そのセンスはともかくとして。
「シロ王女。彼女はセカンドなどではなくて、リットですよ。先日、そう伝えたでしょう?」
「そうだけど、でも……」
「シロ王女は第三王女。故に、サード……などと呼ばれてはどう思われますか?」
「あっ」
シロ王女は、はっとした顔に。
それから、すごく申しわけなさそうにして、リットに頭を下げる。
「ごめんね、リットちゃん……言い訳だけど、シロなりの親しみのつもりだったんだけど……」
「?」
リットはなにも気にしていない様子。
というか、なにもわかっていないみたいだ。
普通、セカンドとか呼ばれたら、大なり小なり思うところは出てくると思うが……
改めて思うが、この子は普通の人間らしい感情が欠けている。
それはなぜなのか?
その理由にリットの正体の謎が関わっているような気がした。
「よくわかないけど、問題ない」
「許してくれるの……?」
「問題ない」
「ありがとう!」
いまいち会話が噛み合っていないような。
こういう、ちぐはぐなところもリットの特徴だ。
ものを知らないというか……
そもそも会話の仕方をまともに覚えていないような気がする。
まるで、生まれて少しの赤ん坊のような……
いや。
赤ん坊はここまで喋ることはできないし、そもそも、このように大きくはない。
ただ、印象としては赤ん坊という感じだ。
「……ふぅ」
敵意はない。
なにかしらよからぬことを考えている様子もない。
それは、ここ数日、直に接してわかった。
ただ、知れば知るほど謎が増えていくばかりで……
これから先、どうすればいいのか?
なかなか頭が痛い。
「お兄ちゃん」
シロ王女がにっこりと笑う。
「あれこれ考えない方がいいと思うな」
「シロ王女?」
「リットちゃんのこと、シロもすごく不思議に思うけど……」
シロ王女は、ちらりとリットを見た。
リットは、以前と同じように花を見つめていた。
じーっと無表情で見つめている。
ただ、以前に比べると、少しではあるが柔らかくなっているような……気がしないでもない。
「シロは、悪い子じゃないと思うな」
「それは……」
「だから、みんなで一緒に知っていこう?」
「……」
「それで、お友達になるの! そうすれば、もっともっと、今より色々なことがよくなると思うの!」
そう……だな。
その通りだ。
シロ王女の言う通りかもしれない。
謎は多い。
でも、まずは仲良くなることを一番に考えてもいいかもしれない。
それが、この国のやり方だろうから。
「リット」
「?」
「改めて、よろしく」
「……うん?」
よくわかっていない様子のリットと、俺は、改めて握手を交わした。




