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315話 リット

「あれは……」


 昼。


 食事を終えて、引き続き職務に励もうとブリジット王女の執務室に向かっていたのだけど……

 途中、偽物を。


 ……いや。

 リットを見かけた。


「……」


 リットは、ぼーっとした様子で中庭に立っていた。

 その視線の先は、どこを向いているかよくわからない。


 リットは、正式に王国で保護されることになった。


 いや。

 保護……といっていいものか?

 ブリジット王女そっくりの偽物で、記憶を持たない謎の女性。


 そんなものを放っておくわけにはいかない。

 今はなにもしていないが、今度、なにかしら行動を起こすかもしれない。


 保護ではなくて監視。

 城内で軟禁……という感じだ。


 こうして城内の一部を出歩くことは許されているが、それ以上は許可されていない。

 もちろん、城下町に出ることはもってのほかだ。


 ただ……


「……」


 リットは、ぼーっとしたまま。


 この状況に、本人は不満を抱いていない様子だ。

 ただ、喜んでいるかどうかもわからず……

 なにを考えているのかさっぱり。


 リットはブリジット王女の偽物であり、警戒すべき対象なのだけど……


『できれば、アルム君もリットのことを気にかけてあげて』


 ブリジット王女の言葉が蘇る。


「……主の命令とあれば仕方ないか」


 俺はリットのところに足を進めた。

 まだ昼休憩中なので、多少の寄り道は問題ない。


「なにをしているんだ?」

「……」


 返事はない。

 ただ、ちらりと視線をこちらによこしたことを考えると、無視しているわけではないようだ。


「……花」

「花?」


 よくよく見てみると、リットは花を見ているみたいだった。

 中庭の一角。

 小さな花が咲いていた。


「その花が好きなのか?」

「……わからない。ただ……」


 リットはしゃがみ、そっと花に指先で触れた。


「……気になる」

「それは……」


 単に、花を愛でているだけなのか?

 それとも、俺が読み取ることができない特殊な意図が隠されているのか?


 警戒して、じっとリットを見るものの……


「……」


 リットは相変わらずの無表情。

 そして、おっとり、のんびりしていた。


「……考えすぎかもしれないな」


 リットの正体はわからず、警戒は続けなければいけない。


 ただ……

 ブリジット王女に害を成すかもしれないと、必要以上に敵意を持たなくてもいいような気はした。


 リットの隣に立ち、同じく花を見る。


「コスモスだ」

「こす……もす?」

「その花の名前だ」

「……こすもす……」


 なにか思うところがあるのだろうか?

 リットは、じっとコスモスを見つめている。


 ……気のせいか?

 その視線は、無感情、無表情ではなくて……

 どこか優しいような気がした。


「部屋に持って帰るか?」

「……いいの?」

「ちょっとまっててくれ」


 必要以上に、リットにプライベートで関わる必要はないのだけど……

 ただ、今はこうしたいと思った。


 一度、中庭を離れる。

 職人のところを訪ねて、今は使っていない小さな鉢植えをもらい、リットのところへ戻る。


「これを、こうして……」


 根を傷つけないように慎重にコスモスを掘り返して、鉢植えに移した。


「ほら」

「……」

「陽のあたるところ……窓際なんかがいいだろうな。そこに置いて、ちゃんと毎日、水をあげるように。もしも、元気がないとか葉が枯れてきたとか、そういうことが起きたら相談するといい」

「……うん」


 リットは、鉢植えを胸に抱きしめた。


 やっぱり無表情。

 でも……


「……うん」


 ちょっとだけ笑みを浮かべているような気がした。

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リット可愛い。絆されるのも時間の問題(笑)
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