302話 対価が必要です
「シロ王女、いらっしゃいますか?」
とある用事があり、シロ王女の私室を訪ねた。
扉をノックしつつ、問いかける。
「お兄ちゃん? どうぞー」
「失礼いたします」
中に入ると、シロ王女は机に向かい合っていた。
勉強ではない。
机の上に置かれているのは……なんだろう?
よくわからない仕組みの道具と……その部品だろうか?
それから、ドライバーやナイフや溶接具。
色々な加工用具が乗せられている。
私室というよりは研究室といった感じだ。
パルフェ王女のところと似ている雰囲気なのは、姉妹だからなのか?
「失礼。取り込み中でしたか」
「ううん、気にしないで。そろそろ休憩をしようかな、って思っていたところだから」
そう言って、シロ王女はイスから降りた。
タタタタタ、と駆けてきて。
えいっ、とこちらに抱きついてくる。
「えへへー♪」
「シロ王女?」
「気にしないで。お兄ちゃん分を補給しているだけだから」
なんだ、その怪しげな成分は?
シロ王女が妙な薬にハマっていないか、心配だ。
「ところで、お兄ちゃんはどうしてここに?」
「シロ王女に、少しお願いがありまして……」
「お願い?」
「鍛錬用の枷を作ってもらえないでしょうか?」
以前、体の各部に重りをつけていた。
そうすることで自然と体が鍛えられていく、というものなのだけど……
帝国の将軍との戦いで、その重りを捨てて。
戦いの余波で、重りが壊れてしまったんだよな。
その後は、力を出し惜しんでいられる状況ではなくて、常に全力を出していたが……
それではダメだ。
今一度、しっかりと鍛錬について考えなければいけない。
そのために、以前と同じような……いや。
以前以上の強力な枷を作る必要があると思われた。
「単純に重いだけではなくて、魔力的な制限もかけられるような、そのような枷を作ることはできないでしょうか?」
「できるよ?」
シロ王女はあっさりと答えた。
「本当ですか?」
「うん。それくらいの構造でいいなら、えっと……三十分もあれば十分かな?」
早い!?
シロ王女は、改めて天才なのだな、と思い知らされた。
「でもでも、うーん……鍛錬が目的なら、もっと色々な仕組みを足した方がいいと思うの! たとえば、ポーションのような治癒能力を持たせるとか」
「なるほど……ただ体をいじめるのではなくて、合間合間に癒やして、そしてまた鍛える。そうすれば、体はさらに効率的に成長できるでしょう」
「そういう仕組みを色々と考えたいから、一週間くらいは欲しいかな?」
「はい、問題ありません」
「あと……ご褒美がほしいな♪」
シロ王女は、にっこり笑顔で言う。
「ご褒美……ですか?」
「王女をタダ働きさせようなんて、お兄ちゃんは酷い人だよ」
それも当然の話だ。
「私は、なにをすればよろしいですか?」
「えへへー、それはね……」
――――――――――
「んー……ここをこうして。それから、ここを繋げて……ありゃ、失敗。でもでも、いい感じにいけたから、次はうまくいくかも!」
「……あの、シロ王女」
「なに、お兄ちゃん?」
「これは、いったい……?」
俺がイスに座り。
その上に、シロ王女が座っていた。
俺をイスの代わりにして、シロ王女は、膝の上で機嫌よさそうにしている。
こうすることで、いいアイディアが浮かんでくるというのだけど……
……本当だろうか?
どう見ても、関係なさそうなのだけど。
いや、待て。
執事である俺が王女の言葉を疑うなんてあってはならない。
これはきっと、俺には理解できない深い考えがあるんだ。
そうに違いない。
「えへへー♪」
シロ王女はご機嫌な様子。
時折、ぱたぱたと足を揺らしていた。
……やはり、意味はないのかもしれない。
――――――――――
その後。
鍛錬用の道具は無事に完成。
目的を果たすことができたのだけど……
たくさんシロ王女に甘えられて。
ついでに、そこをブリジット王女に目撃されて。
そこから、さらに色々なことが起きて……
結果、三徹ほどしてしまったのは、また別の話だ。




