30話 私の執事
私の名前は、ブリジット・スタイン・フラウハイム。
フラウハイム王国の第一王女だ。
今は国を空けている父様に代わり、政務を行っている。
ちなみに、父様の政務まで肩代わりするのはこれが初めてだった。
正直なところを言うと、プレッシャーを覚えていた。
時々、押し潰されそうになっていた。
私の判断一つで、国が、騎士が、民の生活が大きく変わってしまうかもしれないのだ。
その責任を考えると、プレッシャーが半端ない。
でも、それを表に出すことは許されない。
心配をかけてしまう、という話ではない。
上に立つ者は、王は堂々とあるべきなのだ。
優柔不断な姿を見せていたら周囲を不安にさせてしまい、また、疑心を招いてしまう。
だから私は、私らしく立派であろうとした。
どんな時でも笑顔を忘れず。
にっこりと笑い、皆を元気にして。
それでいて、きっちりと仕事をこなす。
大丈夫。
辛いなんてことはない。
苦しいなんてことはない。
だって、私はみんなの『向日葵王女』なのだから。
だから平気。
笑顔でいることなんてへっちゃら。
なにも問題はない。
……なにもない。
そんな時、アルム君と出会った。
「無茶苦茶な出会いだよね……ふふ。今思い返すと、逆に笑えてくるかも」
盗賊に襲われていたところを助けてもらった。
最初は凄腕の冒険者だと思っていたら、実は執事だったという意外すぎる答え。
助けてもらった恩返しというのもあるのだけど……
この人に一緒にいてほしい、と思わせるなにかがあった。
ある意味で一目惚れだ。
私の誘いを受けてくれて、アルム君は私の専属になった。
そして、規格外の能力を発揮して、私のサポートをしてくれた。
アルム君がいなかったら、私は、毎日毎日遅くまで仕事で忙殺されていただろう。
それだけじゃない。
色々な不備を正してくれた。
未然に危ないところを指摘してくれた。
事故が起きても、みんなを助けてくれた。
私だけじゃなくて、この国そのものが助けられた、と言っても過言じゃない。
「知っているかな? 私は、アルム君がいるから本当の意味で笑うことができるんだよ」
正直なところを言うと、今までは無理をしていたところがある。
王女だから王女らしくあらなければならない。
そう自分に言い聞かせて、そして、笑顔もそれらしく作ってきた。
でも……
アルム君と一緒にいる時は自然に笑うことができた。
心からの笑みを浮かべることができた。
それがなぜなのか、理由は今もよくわからない。
彼のことが好きだから?
「うーん……好きといえば好きだけど、でも、これが恋なのかどうか……うーん」
私は王族だ。
将来は、国を継ぐか、あるいは他所の王族と結婚すると思っていた。
どちらにしても、未来は定められている。
だから、恋について考えたことがない。
恋を知らない、わからない。
胸がぽかぽかする。
自然と目でアルム君を追いかけてしまう。
よくわからないけどアルム君に触りたくなってしまう。
……などなど。
よくわからない感情、現象に襲われているけど、やはり、それが恋なのかどうかわからない。
恋ってなに?
「でも……」
恋かどうか、それはさておいて。
アルム君にも笑ってほしい。
心からの笑顔を見せてほしい。
アルム君は帝国で酷い目に遭った。
先の戦いで、決着をつけることができたみたいだけど……
でも、心は傷ついているはず。
私が助けられたように、今度は私がアルム君を助けたい。
彼の力になりたい。
そして、一緒に笑いたい。
「……アルム君……」
彼の名前を口にすると、私は自然と笑顔になる。
胸の奥が温かくなる。
アルム君も、こんな気持ちになったら嬉しいな。
そうやって、いつも、ずっと笑顔でいたいな。
「よし!」
そのためにがんばらないと。
「やるぞー、えいえいおー!!!」
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