3話 ぶらり旅
1週間後。
俺は馬車に乗り、帝国を後にした。
リシテアが次期皇帝になることを期待されている国だ。
そんなふざけた国に留まればどうなるか?
悲惨な未来しか待ち受けていないので、帝国を出ることにした。
そして、隣国のフラウハイム王国に足を踏み入れる。
「さてと……これからどうしよう?」
勢いで絶縁して、帝国を後にした。
リシテアと絶縁したことに後悔はまったくないが、しかし、先のことをまったく考えていなかったのは事実。
後の準備をしてから絶縁すればよかったかもしれない。
「まあ、なんとかなるか」
俺の尊厳を奪うリシテアはいない。
それと、リシテアの専属だからと、山のように仕事を振ってきた同僚もいない。
専属の仕事とは別に、毎日深夜まで働いていた。
睡眠? なにそれ?
休日? なにそれ?
そんな状態がずっと続いていた。
だから、今は全てのしがらみから解放されて、とてもスッキリしている。
俺は自由だ。
だから、なんとかなる。
そんなポジティブ思考でいることができた。
「うん?」
一人、街道を歩いていると、先の方から悲鳴が聞こえてきた。
なんだろう?
気になり、悲鳴がした方に駆ける。
「男は殺せ! 女は捕まえろ!」
「馬もいらねえ、殺してしまえ!」
「はははっ、俺達『漆黒の牙』に見つかったことを不運と嘆くんだな」
武装した男達が馬車を囲んでいて……
「くっ……これだけの数の差があると、さすがに厳しいか!」
「諦めるな! 我々が諦めたら……命に代えても守らなければいけない!」
二人の騎士が剣と盾を構えて応戦していた。
貴族などの立場の高い者が乗る馬車が盗賊に狙われている、といったところか。
「貴族か……リシテアみたいなやつかもしれないけど、無視して死なれても寝覚めが悪いな。いくか」
白手袋をつけて、ペンを手に駆け出した。
盗賊の一人がこちらに気づいて、剣を向けてくる。
「なんだ、てめえ? おい、止まれ! 殺され……」
「死ぬのはお前だ」
「かひゅ!?」
盗賊の懐に潜り込み、ペンで喉を突いた。
盗賊は喉をかきむしるようにしつつ倒れて、ピクピクと痙攣する。
「てめえ!?」
「よくも仲間をやってくれたな!」
二人の盗賊が同時に斬りかかってきた。
直線的でフェイントもなにもない、素人そのものの動きだ。
「遅い」
「がっ!?」
「ぐぅ!?」
とんとんと二人の体を軽く叩くことで動きを誘導して、同士討ちをさせた。
「な、なんだあいつは……おいっ、矢を放て!」
「このっ……死ね!」
合図を受けた盗賊は弓を構えて矢を放つ。
「だから、遅い」
「なぁ!? そんなことありえ……がふっ!?」
放たれた矢を掴んで止めて、逆に投げ返した。
さらに一人、減る。
「こいつもくれてやる」
足元の小石を拾い、投擲。
スリングを使ったかのように高速で投擲された小石は、正確無比に三人の盗賊の頭を次々と撃ち抜いた。
「な、なんだよ、あいつ……人間業じゃねえ」
「デタラメに強いぞ。死神なのか……?」
「ふざけるな、そんな存在がいてたまるものか! 俺がぶっ殺してやる!!!」
頭と思わしき盗賊が現れた。
縦横に二メートルを超える巨体だ。
体重は数百キロだろう。
「死ねぇええええええっ!!!!!」
盗賊の頭はシンプルに突撃をする。
自分の体型を活かした、もっとも効率的で効果的な攻撃ではあるが……
「相手が悪かったな」
「なぁっ!? か、片手で止めただと!?」
盗賊の頭の突撃を片手で受け止めた。
押し潰されることはない。
やや重い、と感じる程度だ。
「ま、待て!? 俺は……」
「さようなら」
軽く跳躍して、ペンを盗賊の頭の耳に突き刺した。
ビクンと一度震えた後、巨体が地面に沈む。
「「「……」」」
残りの盗賊達は沈黙して、
「「「ひぃいいいいい、た、助けてくれぇえええええ!!!」」」
蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
ゴミ掃除は得意だけど……
襲われていた人達を放置するわけにはいかないか。
使い捨ての紙でペンを拭いて、乱れた衣服を整えて馬車に向かう。
「大丈夫ですか?」
「……」
おかしいな、反応がない。
「あの、大丈夫ですか?」
「あっ……ああ。だ、大丈夫だ」
「す、すまない。あまりに突然のことで驚いてしまった。助けてくれてありがとう」
よかった、怪我はしていないみたいだ。
馬も無事で、今は落ち着いている。
「それにしても君は強いな。さぞや名のある冒険者とお見受けした」
「いいえ。俺は、元執事です」
「「執事!?」」
いやいやいや、となぜか二人が驚いてしまう。
「執事が数十人の盗賊を圧倒するとか、ありえないだろう……」
「しかも、連中は悪名高い『漆黒の牙』。ベテラン冒険者でも苦戦するはずなのに……」
「執事なので、ゴミ掃除が得意なのですよ」
「「ゴミ掃除とか、そういうレベルじゃないからな!?」」
いや、盗賊はゴミだろう?
「な、なあ……あんたは本当に執事なのか?」
「本当は歴戦の冒険者じゃないのか?」
「そんなわけないでしょう? 俺は、どこからどう見ても執事じゃないですか」
「「こんな執事がいてたまるかぁあああああっ!!!」」
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