298話 助かった……
「お姉様! お兄ちゃん!」
元気な声と共に扉が開いて、シロ王女が姿を見せた。
「「ぜいぜいぜいっ……!!!」」」
「どうしたの、二人共? なんだか、ものすごく慌てて疲れているみたいだけど……」
「な、なんでもありません……」
「う、うん。なんでもないよ、シロちゃん。ちょっと体を動かして、運動不足にならないようにしていただけだから……」
「えー。追いかけっことかしていたのなら、シロも混ざりたかった!」
あ、危ない……
なんというか、色々と危ない。
とにかく、本当に危なかった。
空気を読んでいるのか。
それとも、読んでいないのか。
とにかく、今はシロ王女がやってきたことに感謝だ。
「そ、それで、シロちゃんはどうしたの? 私に用? それともアルム君?」
「二人に!」
シロ王女は、笑顔でやってきて、執務室の机の上になにかを並べる。
「これは……魔道具ですか?」
「うん。以前、作ったものを改良したから、お姉様とお兄ちゃんに見てほしくて」
シロ王女が見せた魔道具は、周囲にいる人の位置を探り出すものだ。
人は、大なり小なり魔力を常に発している。
それを感知して、位置を示す……
かなり高度な技術が使われている魔道具だ。
シロ王女は、見た目は幼く、愛らしいのだけど……
でも、その頭脳は天才的である。
「改良って言ったけど……うーん? 見た感じ、特になにも変わっていないよね」
「中身は別物だよ」
シロ王女曰く。
以前は、ランダムに周囲にいる人の反応を探るだけ。
しかし、今回は、特定の人だけを探ることできるらしい。
「「えっ」」
シロ王女の説明を聞いて、俺とブリジット王女は、信じられないという驚きの声をあげた。
特定の人だけを探ることができる、なんて……
それは、とんでもない発明ではないか?
この魔道具があれば、犯罪者の追跡など、かなり簡単になるだろう。
いや、それ以上の成果が期待できる。
たとえば、戦場。
敵将の位置を特定することができれば?
敵将の位置から、ある程度の作戦を予想することができるだろう。
それだけじゃない。
こちらから部隊を差し向けて、奇襲を仕掛けることが可能だ。
その場合、今までの苦労の比ではなく、簡単に敵陣を落とすことができて……
敵は指揮系統が壊滅。
一気に勝利に傾くだろう。
「す、すごいよ、シロちゃん……!」
「このような発明をしてしまうとは……さすがです」
「えへん!」
シロ王女は、得意そうに胸を張る。
そして……言う。
「これがあれば、迷子の子供とか簡単に見つけられるよね!」
「「……」」
俺とブリジット王女は、言葉をなくしてしまう。
俺達は、戦場で利用することを真っ先に考えた。
しかし、シロ王女は違う。
まず最初に、平和的な利用を考えていた。
開発を終えた後も、それは変わらない。
「うーん、なんていうか……」
ブリジット王女が苦笑した。
「シロちゃんには、敵わないなあ……」
「どうしたの、お姉様?」
「ううん、なんでもないよ。シロちゃんは、そのままでいてね」
「ほぇ?」
シロ王女が、このまま純粋でいられるように。
温かい心を持っていられるように。
それを成し遂げるために、サポートをするのも俺の役目だろう。




