297話 ワンステップ
「んっ……」
腕の中のブリジット王女が、軽くみじろぎした。
慌てて力を弱める。
「すみません、強かったですか?」
「ううん、大丈夫だよ。ちょっと、その……照れちゃっただけだから」
「そう……ですか」
そういう可愛いことを言わないでほしい。
反則だろう。
どうにかなってしまいそうだ。
目の前には、世界で一番好きな女の子。
そして、部屋に二人きり。
つまり……
……いやいやいや。
待て。
俺はいったい、なにを考えている?
俺とブリジットは恋人同時ではあるが、彼女は仕えるべき主。
たまに、こういう可愛いお願いは応えてもいいが……
だからといって、そこでハメを外していいわけがない。
節度のある付き合いを進めなければ。
「……」
じーっと見つめられた。
「なんでしょう?」
「……アルム君って、真面目だね」
「えっ」
もしや、俺の考えていることを……?」
「ふふ。なんとなくだけど、わかるかな?」
「読心術を……?」
「違うよ。こういう方面限定っていうのと、あとは、アルム君の恋人だもん。好きな人のことなら、なんとなく……ね?」
いたずらっぽく笑うブリジット。
まいった。
俺は、こういったプライベートな場でも彼女に勝てないのかもしれない。
「でも……」
ブリジットは、もう一度抱きついてきた。
「よかった、こうして会うことができて……」
「……心配をかけました」
「大丈夫。アルム君のことだから、なんだかんだうまくやる、って信じていたから」
「ただね」と間を挟んで、ブリジットはさらに続ける。
「信じているけど、でも、それと寂しさは別で……魔道具を使って話はしていたけど、でも、目の前にアルム君はいなくて。寂しいなあ……って」
「……俺も、同じことを思っていました」
ブリジット王女がいない。
声だけで、その姿を……
手から伝わる温もりを感じることができない。
それはとても寂しく。
ホームシックに似た感覚になってしまうのだった。
とはいえ。
今は、その分、思い切り彼女を抱きしめることができる。
熱を感じることができる。
それでいい。
「ね、アルム君」
「はい」
「……」
ブリジットは、こちらを見上げて……
それから、そっと目を閉じた。
彼女が求めるものは明白。
こういう方面にとことん鈍感らしい俺でも、さすがに理解できた。
俺は、ブリジットを優しく抱き寄せて……
「……んっ……」
そっと唇を重ねた。
「……アルム君……」
「……ブリジット……」
一度では終わらなかった。
寂しさのせいで、色々と加速しているのかもしれない。
何度も何度も唇を触れ合わせる。
ブリジットの瞳が熱く潤んでいく。
俺も似たようなものかもしれない。
俺は、そっと彼女の体に手を……
すみません、あまりにも暑いので夏休みをください……
8月第三週の更新はお休みします。ごめんなさい……




