295話 なんでもやると誓ったけれど、しかし……
「どう、楽しんでいる?」
「そうですね。ほどほどに」
「嘘」
ライラは、くすくすと笑いつつ、言う。
「とても疲れた、っていう顔をしているわよ?」
「む」
無表情を保っていたはずなのだが。
俺の考えを察した様子で、ライラは、さらに楽しそうに続ける。
「確かに無表情だけどね」
「なら、どうして?」
「あなた、帝国時代は人形のようで、すごく冷たい感じがしたわ。でも、今は、ちゃんとした人間になっていて……だからなのかしら。以前のあなたを知っているからこそ、変化に気づくことができる……そういう感じね」
「優れた観察眼をお持ちで」
「褒められたものではないけどね」
ライラは苦笑した。
その性格、その観察眼。
あまりいい思い出がないのかもしれない。
彼女は帝国の時代を生き抜いてきた。
そして、革命を成し遂げた。
そのために、どれだけのものを捧げてきたか。
正義だけを掲げるわけにはいかず。
時に、悪にも手を染めただろう。
目的のために手段を選ばないように……
だからこそ、誇るのではなくて苦笑したのだろう。
「……ごめんなさい」
不意に、ライラは謝罪の言葉を口にした。
その対象は俺だ。
ただ、謝られるようなことをされた覚えはない。
「なんのことでしょうか?」
「まったく気にしていないのか、そもそも気づいていないのか……あなたも、なんだかんだ、けっこうなお人好しよね」
「そのようなことはないかと」
「そう言える時点で、もう決まりなのよ」
二度目の苦笑。
「今回の件、けっこう無理を言って協力してもらったでしょう?」
「……そう言われてみると、そうかもしれませんね」
「というか、半分くらいは脅していたかも。って……こういうのは言い訳ね。今更、ってことになってしまうわ」
「結局、どのような話が?」
「なんでもいいわ。困ったこととか、どうしても成し遂げたいことができたとか。そういう時は、私と連絡をとってちょうだい。どのような状況であれ、どのような内容であれ、全力で力になると約束するわ」
「貸し一つ、みたいな感じでしょうか?」
「そういうこと」
ライラに貸しを作ることができる。
しかも、それはとても大きなもの。
そのことを喜ぶべきか。
あるいは、妙な縁ができたことを警戒するべきか。
なんとも判断に迷うところだ。
「話はそれだけ。邪魔したわね」
「……一つ、いいですか?」
どうしても気になることがあり、立ち去ろうとするライラを引き止めた。
「なにかしら?」
「あなたは……帝国を崩壊させたこと、気にしていませんか?」
「どういう意味かしら?」
「別に……ふと、どう思っているのか聞きたかっただけです」
俺とて、後悔などがあるわけではない。
リシテアと完全な決別を果たしたことを、後悔しているわけでもない。
ただ……
時に、故郷がもうないことを複雑に思うことがある。
ろくでもない故郷かもしれないが。
しかし、それでも故郷は故郷。
それが消滅して、二度と思った通りの光景を見られないということは、なかなかに複雑だ。
「こうしてよかった……私は、そう思っているわ。心の底からね」
「……そうですか」
「じゃあ、これで。アルム君も、あまり思いつめないようにね?」
ライラは小さく微笑み、立ち去った。
俺の心中を見透かされていたのだろうか?
「ふぅ……」
やはりというか、俺はまだまだだな。
この程度で迷い、悩んでしてはダメだ。
過ぎたこと。
それは仕方ないことで、忘れるか割り切らないといけない。
「……もっとも、それができないからこそ、人間というのかもしれないな」




