表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

295/333

294話 生きていた、それだけを

「いいじゃないか、細かいことは気にしないでいいさ」

「……」


 それは、パルフェ王女なりの励ましの言葉なのだろう。


 気にしなくていい。

 考えなくていい。

 今は、体を休めることだけを考えよう。


 ……たぶん、そのような感じ。


 ただ、俺は不敬にも、小さな苛立ちを覚えてしまった。


 俺は、俺の考えがある。

 俺だけの悩みがある。


 たまにいるだろう。

 深刻な悩みを抱えた人が、必死な想いで人に打ち明けて……

 すると、そんなくだらないことで悩むな、と励ますという、そんな展開。


 あれで、私はなんてちっぽけなことで悩んでいたんだ、と解決する人もいるらしいが……

 正直、俺には信じられない話だ。


 その人にとって、他の人からはちっぽけに見えるかもしれないけど、しかし、とてつもなく重い悩みなのだ。

 それを小さなものと断じられたくない。

 あなたの尺度で勝手に測らないでほしい。


 ……そんな、八つ当たりのような苛立ち。


 ただ。

 その感情は、すぐに違うものになる。


「いいじゃないか、素直に喜べば」

「え?」

「詳しい事情はわからないし、まあ、とても厄介そうだけどね。これからのことを考えると、なかなかに頭が痛くなるだろう。でも、生きていたんじゃないか」

「……」

「生き別れになっていた姉が生きていた……まずは、それだけを考えて、喜んでもいいんじゃないかい?」


 目から鱗が落ちる想いだった。


 そうだ。

 まさに、その通りだ。


 姉さんが、なぜベルカと行動を共にしているのか、謎は尽きないけど……

 でも、そこは、今はいい。

 情報が圧倒的に足りていないため、考えても答えが出ることはない。

 考えるだけ無駄だ。


 それよりも、死んだと思っていた姉さんが生きていた。

 まずは、そこを喜ぶべきでは?


 敵対するかもしれないけど。

 でも、姉さんが生きていたことは、素直に嬉しいわけで……

 できれば、話をしてみたいわけで……


「……ありがとうございます」

「お、なんだかいい顔になったね」

「パルフェ王女のおかげです」


 姉さんが生きていた。

 今は、それだけを考えて……喜ぼう。




――――――――――




 数日後。

 同盟国を発つ前日。


 俺達のために、フェリス様が盛大な宴を開いてくれた。


 もちろん、同盟国として、今回の件で王国に多額の謝礼を始め、様々な面で力になることを約束してくれた。

 商業的な面でも、大きく窓口を開いてくれるとのこと。

 それで、色々と優遇措置をしてくれるとのこと。


 それとは別に。


 事件解決の功労者として、王国に帰る前に、盛大な宴を開いて感謝の念を伝えたいとのことだった。


 断る理由はないので、素直に受けて……

 俺達は、たくさんの料理と酒に囲まれて、贅沢な時間を過ごしていた。


「おおお……おぉ? リセが三人に増えているねぇ……もしかして、そんな特技が? 興味深い、興味深いねえ……解剖していい?」

「ええっと……パルフェ王女? 自分は、さすがに解剖は勘弁してほしいのでありますが……」

「お礼、してくれるんでしょ?」

「うぅ……この人、とても厄介でありますよ!」


 パーティー会場の傍らで、パルフェ王女に絡まれたリセが泣いていた。


 ……パルフェ王女、あまり酒癖はよくないんだな。

 意外な事実だ。


 俺は、見て見ぬふり。

 さすがに、あそこに乱入する度胸はない。


 右手に琥珀色の酒が入ったグラスを持ちつつ、会場を軽く散策する。

 途中、声をかけられて挨拶をして……

 笑顔で場を離れる。


「ふぅ……」


 俺達は、一応、国の危機を救った英雄という扱いだ。

 故に、たくさんの人に声をかけられる。

 いい意味でも悪い意味でも。


 ただ、俺は執事。

 こうして、前に出ることは慣れていないため、少し疲労を感じてしまう。


 やはり執事たるもの、主の後ろに控えておくべきだよな。

 こうして前に出ることは、なかなかどうして厳しい。


「アルム君」


 声をかけられて振り返ると、


「ライラ様」


 今回の事件に関わるきっかけになったとも言える、ライラがいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://ncode.syosetu.com/n8290ko/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ