表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

291/291

290話 今度こそひとまずの解決

「いやー、ごめんね? 心配かけるつもりはなかったんだけど、無事、作業が終わったら、それまでの緊張がふっと解けて気も抜けて、すやーっと」


 帰り道。

 パルフェ王女が笑いながら言う。


 あの時……


 毒と一緒に倒れていたパルフェ王女を見て、俺は、心底肝を冷やした。

 まさか、という最悪の展開を想像した。


 ただ、それは早とちり。


 パルフェ王女は、ただ寝ていただけ。

 フェンリルも、そんな彼女に習い寝ていただけ。


 ……人騒がせにもほどがある。


「兵器の起動は阻止しておいたし、色々とめちゃくちゃにしておいたから、もう使えないぜ。こうして、毒も抜き出したことだしね」


 パルフェ王女は、笑顔で琥珀色の液体が入った瓶を取り出した。


 それは劇毒と聞いているのですが。

 その量で、国を壊滅させることができるとか。


 そんなものを笑顔で取り扱う……

 なんだかんだ、パルフェ王女は大物だな、と思った。


「敵の大将は逃してしまったみたいだけど、こうして、最大の目的は達成することができた。ま、勝ちってことでいいんじゃないかな?」

「……だといいのですが」


 パルフェ王女は楽観的に言うが、俺の考えは少し違う。


 確かに、今回のテロを阻止できたことは大きい。


 敵が名乗りをあげて、大掛かりな計画を立てて、絶対に成功するぞ、という意気込みで挑んできたテロだ。

 完全に出鼻をくじくことに成功した。

 これで、しばらく大きな活動はできないと思う。


 ただ、ベルカを逃したのは痛い。

 本当に痛い。


 彼と接した時間はわずか。

 まともな会話も交わしていない。


 ただ……


 彼がまとう雰囲気は、死を覚悟した戦士のそれだ。

 ある意味で死神に近い。


 今回の件。

 なによりも確保しなければいけなかったのは、兵器ではなくてベルカだったのかもしれない。

 そう思うほどに、彼を逃したことに嫌な予感がした。


 とはいえ、毒を放っておくわけにもいかないから、これがベストなのだろう。

 そう、自分を納得させるように言い聞かせた。


「ところでさ」

「はい」

「リセちゃんから聞いたんだけど」

「ちゃん……」


 ちゃん付けされて、リセが複雑な顔をしていた。

 騎士のプライドとか色々とあるのだろう。


「執事君は、お姉さんがいたのかい?」

「それは……」


 思わず言葉に詰まってしまう。


 主に隠し事をすることは許されない。

 パルフェ王女は、一時的な主ではあるものの……


 そうでなくても、彼女は尊敬に値する王女だ。


 一件、めちゃくちゃではあるものの……

 他者を慈しみ、自国のために身を捧げる覚悟がある。

 でなければ、テロリストの本拠地までわざわざやってこない。


 そんなパルフェ王女に隠し事なんてしたくない。

 それは本心だ。

 しかし、どのように話していいか……

 心の整理がつかず、うまく言葉を紡ぐことができない。


「あー……ちょい時間が必要な感じだね。オッケー。お姉さん、無理には聞かないから、落ち着いたら話してくれればいいさ」

「私の方が歳上なのですが……」

「気にしない気にしない」

「……ご厚意、感謝いたします」


 王国に戻るまでに心の整理をつけて。

 そして、皆に話をしよう。


 そう決めて、俺達は要塞を後にした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://ncode.syosetu.com/n8290ko/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ