290話 今度こそひとまずの解決
「いやー、ごめんね? 心配かけるつもりはなかったんだけど、無事、作業が終わったら、それまでの緊張がふっと解けて気も抜けて、すやーっと」
帰り道。
パルフェ王女が笑いながら言う。
あの時……
毒と一緒に倒れていたパルフェ王女を見て、俺は、心底肝を冷やした。
まさか、という最悪の展開を想像した。
ただ、それは早とちり。
パルフェ王女は、ただ寝ていただけ。
フェンリルも、そんな彼女に習い寝ていただけ。
……人騒がせにもほどがある。
「兵器の起動は阻止しておいたし、色々とめちゃくちゃにしておいたから、もう使えないぜ。こうして、毒も抜き出したことだしね」
パルフェ王女は、笑顔で琥珀色の液体が入った瓶を取り出した。
それは劇毒と聞いているのですが。
その量で、国を壊滅させることができるとか。
そんなものを笑顔で取り扱う……
なんだかんだ、パルフェ王女は大物だな、と思った。
「敵の大将は逃してしまったみたいだけど、こうして、最大の目的は達成することができた。ま、勝ちってことでいいんじゃないかな?」
「……だといいのですが」
パルフェ王女は楽観的に言うが、俺の考えは少し違う。
確かに、今回のテロを阻止できたことは大きい。
敵が名乗りをあげて、大掛かりな計画を立てて、絶対に成功するぞ、という意気込みで挑んできたテロだ。
完全に出鼻をくじくことに成功した。
これで、しばらく大きな活動はできないと思う。
ただ、ベルカを逃したのは痛い。
本当に痛い。
彼と接した時間はわずか。
まともな会話も交わしていない。
ただ……
彼がまとう雰囲気は、死を覚悟した戦士のそれだ。
ある意味で死神に近い。
今回の件。
なによりも確保しなければいけなかったのは、兵器ではなくてベルカだったのかもしれない。
そう思うほどに、彼を逃したことに嫌な予感がした。
とはいえ、毒を放っておくわけにもいかないから、これがベストなのだろう。
そう、自分を納得させるように言い聞かせた。
「ところでさ」
「はい」
「リセちゃんから聞いたんだけど」
「ちゃん……」
ちゃん付けされて、リセが複雑な顔をしていた。
騎士のプライドとか色々とあるのだろう。
「執事君は、お姉さんがいたのかい?」
「それは……」
思わず言葉に詰まってしまう。
主に隠し事をすることは許されない。
パルフェ王女は、一時的な主ではあるものの……
そうでなくても、彼女は尊敬に値する王女だ。
一件、めちゃくちゃではあるものの……
他者を慈しみ、自国のために身を捧げる覚悟がある。
でなければ、テロリストの本拠地までわざわざやってこない。
そんなパルフェ王女に隠し事なんてしたくない。
それは本心だ。
しかし、どのように話していいか……
心の整理がつかず、うまく言葉を紡ぐことができない。
「あー……ちょい時間が必要な感じだね。オッケー。お姉さん、無理には聞かないから、落ち着いたら話してくれればいいさ」
「私の方が歳上なのですが……」
「気にしない気にしない」
「……ご厚意、感謝いたします」
王国に戻るまでに心の整理をつけて。
そして、皆に話をしよう。
そう決めて、俺達は要塞を後にした。