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289話 ひとまずの解決。しかし暗雲は続く

「アルム殿、大丈夫ですか?」

「はい……なんとか」


 しばらく休むことで、なんとか動けるくらいに回復した。

 立ち上がり、通路を進む。


「いくらか骨にヒビが入っているようですが、骨折はしていないみたいなので」

「それは、ぜんぜん大丈夫ではないのでは!?」

「問題ありません。骨にヒビが入ったくらいで執務を遂行できないようでは、それは執事とは呼べませんから」

「アルム殿の中の執事のハードルが究極的に高すぎて、自分、少し引いているでありますよ……」


 なぜだ……?


「ひとまず、こちらを」

「ありがとうございます」


 リセからポーションを受け取り、それを一気に飲んだ。


 痛みが和らいで、体も動かしやすくなる。


「少し楽になりました、ありがとうございます」

「本当は、すぐに治癒師に見せたいところなのですが……」

「まだ、パルフェ王女と毒の問題が残っています。そちらの対処をしなければ」

「そうですね……ただ、無理はしないでください。なにか辛いことがあれば、すぐに伝えてください」

「わかりました」


 その後は、二人で並んで歩く。

 会話はなく、静かなものだ。


 ただ、リセは、時々、ちらっとこちらを見ていた。


 ……たぶん、俺の姉さんのことが気になっているのだろう。


 ベルカに従っていたメイド。

 とてつもない強さを誇り、そんな彼女を、俺は姉と呼ぶ。


 疑問しかない状況だ。

 ヘタをしたら、俺が敵と内通していたと勘違いされてしまうだろう。


 ただ、リセは沈黙を保っている。


 色々と気になるところはあるけれど……

 でも、俺を信じようとしてくれているみたいだ。


 ……ありがたい。


 彼女のような人が味方で、本当によかった。


「この先、百メートルほど先に行ったところに、おそらくパルフェ王女がいますね」

「……なにも考えずにアルム殿についてきましたが、そういえば、どうして場所がわかるのですか……?」

「匂いがするので」

「……」

「勘違いしないでください。フェンリルの匂いですよ? 無遠慮に女性の匂いを嗅ぐようなことは、絶対にいたしません」

「あ、いや……どちらにしても、その犬もびっくりの嗅覚に驚いているのでありますが……なにはともあれ、無事に合流できそうですね」

「……そうですね」


 どこか嫌な予感がしたものの、それは口にしないでおいた。


 パルフェ王女なら大丈夫だろう。

 フェンリルが一緒だし……

 それに、彼女の能力はとても高い。

 王女とは思えないほどで、この問題をきっと乗り越えてくれるはずだ。


「ここですね」


 少し歩いたところで、厳重な扉に行き着いた。

 ここが保管庫。

 おそらく、毒がある場所なのだろう。


 ここにパルフェ王女がいるということは、毒の回収。

 あるいは、無力化を試みているのだろう。


 その結果はどうなのか?

 パルフェ王女を信じて別行動をとったとはいえ、やはり心配なものは心配だ。


 こんな時、心が揺らぐことなく。

 パルフェ王女ならなにも問題ない。

 そう、完璧に振る舞うことができればいいのだけど……


「……俺も、まだまだ修行不足だな」

「アルム殿が修行不足だとしたら、世の中の人、みんな大変なことになりますよ」


 俺とリセの認識がことごとくズレているような気がする。

 なぜだ?


「……物音はしないでありますね」

「ただ、気配はします」


 二人分の気配。

 パルフェ王女とフェンリルだろうか?


 あるいは……


 いや、悪いことは考えないようにしよう。

 こういう時にそんなことを考えてしまうと、現実になってしまいそうで怖い。


「開けますよ?」

「いつでも」


 リセが頷いたのを確認してから、ゆっくりと扉に手を添えた。


 鍵はかかっていない。

 罠の感じもしない。


 大丈夫だ。


 扉をゆっくりと押して、少しずつ内部の様子が明らかになり……


「パルフェ王女!?」


 フェンリルにもたれかかるようにして、倒れているパルフェ王女の姿があった。

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