286話 予期せぬ再会
部屋の中が騒がしかったものの、それはすぐに収まった。
言い争うような声が聞こえてきたが……
「いったい、どうしたのでありましょう?」
「わかりません……これは、どうするか……」
突入するか?
それとも、もうしばらく様子を見るか?
迷っている間に扉が開いた。
姿を見せたのは、初老の男性。
ただの一般人ではないのは一目瞭然で、ただならぬ気配をまとっている。
あれがベルカだろうか?
そして、隣に立つ人は……
「なっ……!?」
「ちょ、アルム殿!?」
息を潜めて隠れないといけないのだけど、どうしても驚きを抑えることができず、大きな声をあげてしまう。
そんなバカな!
あれは……
あの人は……
「む? お前達は……そうか、ネズミがいつの間にか入り込んでいたようだな」
「くっ……お前は帝国の関係者だな? 神妙にするのでありますよ!」
「儂を捕まえるために……いや。毒を使われることを防ぐために、わざわざこのようなところまで……か。アカネイアも、まともな者がいるらしいな」
「おとなしくするでありますよ!」
「待て!?」
リセが斬りかかり……
それを見て、俺は慌てて止めていた。
それをしてはいけない。
その刃が届くことは絶対にない。
そんな、確信に近い予感があったからだ。
しかし、間に合わない。
リセは男に斬りかかり……
「かはっ……!?」
いつの前にか、もう一人の人物に距離を詰められていて、痛烈な一撃を腹部に受けた。
吹き飛び、背中から壁に激突する。
肺の空気が追い出されたような感じで悲鳴をあげる。
リセを迎撃した人物。
その人は女性だ。
二十代前半といったところだろう。
長い黒髪は後ろでまとめて、ポニーテールにしている。
冷たく氷のような瞳。
人形のように綺麗で、白い肌。
そして……
その身にまとうはメイド服。
このようなところにメイドがいるなんて、頭のおかしい話だ。
ただ、実際に目の前にいた。
そして……
俺は、そのメイドに心当たりがあった。
忘れていない。
忘れるわけがない。
だって……
「姉さん……!?」
エリン・アステニア。
ずっと前に生き別れになった、実の姉だ。
「姉さん、どうしてこんなところに……!? いったい、なにをしているんだ!?」
「……どうしますか?」
俺の問いに答えることはなく、姉さんは奥の男に小さく問いかけた。
「知り合いか?」
「はい、弟です」
「再会を喜んでも構わないが?」
「気にせず」
「そうか。なら……我々の脱出の邪魔をしない程度に遊んでやれ」
「了解」
姉さんは両手に短剣を持つと、恐ろしい速度でこちらに突撃してきた。