284話 異変
さて、どうするか?
敵将がいるであろう部屋の前まできた。
このまま突撃して制圧したいところだけど……
しかし、部屋の中の様子がわからない。
敵将であるベルカがいないかもしれない。
あるいは、これは罠で待ち伏せされているかもしれない。
可能性を考えたらキリがないのは理解しているが……
ただ、この場合は、悪い想像しか出てこない。
それだけ状況は悪い。
「まずは、迂回路を探しましょう。どうにか、中の様子を確認して……」
「問題なければ、突撃ですね?」
「はい」
やや強引な作戦だ。
作戦と呼べるほど精密なものでもない。
ただ、他に手はないだろう。
限られたこの状況下では、できることは少ない。
「では……」
一度、この場を離れようとしたところで、
「どういうことですか!?」
部屋の方から大きな声が聞こえてきた。
分厚い扉を挟んでも、なお、鮮明に聞こえるほどの声だ。
俺とリセは、思わず顔を見合わせた。
「そのような話は……!」
声はなおも聞こえてくる。
明らかな怒鳴り声。
もしかして、仲間割れか……?
――――――――――
「……将軍、それは本気ですか?」
要塞の司令室。
そこで、将軍であるベルカと副官のゴラムがにらみ合い、対峙していた。
ゴラムは鼻息も荒く、顔も赤い。
一方のベルカは表情を変えることなく、落ち着いたものだ。
「ああ。作戦の変更をする」
「拠点を変える……同時に、アカネイアに対して猶予を与える。それは……本気なのですか?」
「もちろんだ」
ゴラムは信じられないといった様子で、声さえ震わせていた。
「失礼ですが……正気ですか!? そのようなことをすれば、我々は侮られてしまう! 兵器なんて使う勇気はないチキンだ。放っておけばいい、のんびり討伐すればいい……そのように考えられてしまうのですよ!?」
「兵器の重要性はアカネイアも理解しているはずだ。そこまで楽観的な対応にはならん」
「その兵器がどれだけ重要だろうと、使う気がないと思われてしまえば、そこで終わりなのですよ!? 我らの持つカードは、意味を失うのです!」
ゴラムは意気込み、急かすように机を叩いた。
ベルカは、ピクリと片眉を動かしただけ。
「将軍、アレを使いましょう」
「……正気か?」
「なにも、全てを使うわけではありません。一部を使い、我らが本気だということをアカネイアに示すのです。そうすれば、交渉もスムーズに進むでしょう。連中が、我らを侮ることもなくなるでしょう」
「ダメだ」
提案を一蹴されて、ゴラムはさらに声を荒げる。
「どうして!?」
「アレは、あくまでも最後の切り札だ。気軽に使うわけにはいかない」
「今がその時なのでは!?」
「民を巻き込むわけにはいかん」
「その民は、帝国を捨てた民だ! どうなろうと気にすることはない!」
「……それがお前の本音か」
ゴラムという男は、確かに帝国に愛を持つ。
その忠義の全てを帝国に捧げている。
だからこそ。
帝国を復活させるためならば、なんでもする。
帝国民を巻き込むことになったとしても、気にしない。
帝国のためなのだから光栄だろう、と堂々と言えるようなタイプだ。
しかし、ベルカはそれをよしとしない。
ベルカも、帝国を復活させるためならば、なんでもしたい。
が、本当になんでもするわけにはいかない。
かつての偉大で強大な帝国を取り戻す。
そのために外道に堕ちたのならば、帝国の栄誉も消えてしまう。
それを認めるわけにはいかない。
「どうしても、考えを変えていただけないのですか?」
「キミこそ、もう少し柔軟な発想をしてほしいな」
「……どうやら、あなたはトップにふさわしくないようだ」
冷たく言い放ち、ゴラムは腰の剣を抜いた。
◇ お知らせ ◇
新作はじめました!『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』
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現在13話まで更新済!
ざまぁ×拳×無双系です。よろしければぜひ!