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283話 守るだけではなくて、信じることも必要

「……」


 リセと二人、要塞の中を進んでいく。


 会話はない。

 敵陣の中だから、という理由はあるが……

 パルフェ王女のことが気になり、呑気に話をできる気分ではない、という理由もあった。


「……パルフェ王女のこと、気になるのでありますか?」


 こちらを気遣う感じで、リセが問いかけてきた。


 今は、先に進むことだけを考えたいのだけど……

 ただ、気持ちに余裕がなく、張り詰めすぎていることも確か。


 リセの気遣いに甘える形で口を開く。


「そうですね。やはり、どうしても気になってしまいますね」


 さきほど、パルフェ王女が提案した内容は、二手に別れての行動だ。


 一組は、毒を探し出して、無力化する。

 あるいは、運び出して、敵の手から奪取する。


 もう一組は、それが失敗した場合に備えて、ベルカ率いる敵軍を制圧する。

 全ての敵兵と戦う必要はない。

 例えば、要塞の入り口を爆破して全て封鎖してしまうなど、そういった過激な方法を選んでもいい。


 二手に別れての行動は、作戦の成功率を少しでも上げるためだ。


 今回の一番の目的は、ベルカに兵器を……毒を使わせないこと。

 それを一番に考えて、より成功率を高めるために、二手に分かれることにした。


「大丈夫でありますよ。パルフェ王女は、フェンリルが一緒ですからね。敵が近づいてきたら、すぐに察知して逃げることが可能です。仮に会敵しても、フェンリルの力ならば、そこらの兵士に負けることは、まずありえないでしょう」

「それは理解しているのですが……」


 それでも、不安なものは不安だ。


 不測の事態が起きないだろうか?

 予想以上のトラブルに遭遇したりしないだろうか?


 不安は尽きない。


「はあ……情けないですね」


 ついつい弱音がこぼれてしまう。


「執事たるもの、主を補佐するだけではなくて、信頼しなければいけません。この方ならば……と、時に、全てを委ねなければいけません。それなのに、今の私はそれができていない。子を心配する親のように過保護になり、うろたえるばかり」

「それは、当たり前のことでは?」

「当たり前……?」

「親しい人が危険な道を歩く。そこで心配する気持ちに、身分も立場も、なにも関係ないでありますよ。人が抱く、当然の感情でありますよ」

「人が抱く……」

「ですから、アルム殿が気にすることはなにもありません」

「……ありがとうございます」


 パルフェ王女の心配をしないというのは、さすがに無理なのだけど……

 それでも、いくらか心が楽になった。

 もう少し信じよう、という気持ちになれた。


「自分達は、自分達のやるべきことをやりましょう」

「そうですね……そして、さっそく、そのやるべきことが巡ってきた感じでしょうか」


 要塞の奥に進むと、一際警備が厳重なところを見つけた。


 毒の保管庫ではないだろう。

 他に警備が厳重なところがあるとしたら……


「……あの扉の奥に、ベルカがいるやもしれませぬ」

「同感ですね」


 俺達の潜入は、まだ気づかれていないはずだ。

 それなのに、扉の前を警戒する兵士がいる。


 ここまで警備を厚くする理由は、敵将がいるから。

 それ以外の理由は思い浮かばない。


「どうしますか? 見張りは二人。突破は問題ないと思いますが……」

「部屋の中に誰がいるのか? そこが問題ですね」


 ベルカがいればいい。

 しかし、いなかった場合は、無駄に騒ぎを起こしてこちらの存在を相手に伝えることになってしまう。


 ベルカがいたとしても、その他、たくさんの敵がいたら?

 たくさんの敵兵の中に飛び込むようなもので、自殺行為だ。


「アルム殿は……部屋の中の様子はわかったりしませんか?」

「扉や壁が分厚く、妙な素材が使われているせいで音が反響しているため……」

「そうですか……いえ、無理を言いました」

「少ししかわからないですね」

「少しはわかるのですか……」


 なぜか、リセが唖然とした表情に。


 ……そうか。

 これはこれで、おかしなことなのか。


 執事として、確かな知識と一般教養を身に着けたいものだけど……

 なかなか道は険しいようだ。


「……というか、それだけの能力がありつつ、どうして、一般常識だけは欠けているのか、ものすごく理解に苦しむのですが」

「学ぶ機会がなければ。あるいは、きちんと学ぶことができなければ、いつまでもそのまま……そういうものですよ」


 だからこそ、きちんと学ばなければいけない。

 あるべき事実を受け止めて……

 帝国はもうないのだと、ベルカに理解してもらわなければいけない。

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