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282話 盗み聞き

「……と、いうようなことがありました」


 さきほど、巡回をする兵士から聞いた情報をパルフェ王女とリセと共有した。


 敵の持つ兵器の正体は毒。

 真偽はわからないが、解毒が不可能という最悪の代物だ。


 その威力は不明だが……

 最悪を想定するならば、確かに、アカネイア同盟国を壊滅させることも可能だろう。


 水源である川に混ぜるとか。

 空中から散布するとか。

 いくらでも方法はある。

 詳しい情報を知らない限り、それを事前に止めることは難しいだろう。


「「……」」


 なぜか、パルフェ王女とリセは呆然としていた。


「お二人共、どうかいたしましたか?」

「えっと……執事君は、どうやってその情報を手に入れたんだい?」

「こっそりと盗み聞きしました。特に手の込んだことはしておらず、実に単純なことですよ」

「そう言われても……」

「巡回中の兵士に近づけば、普通、バレてしまうと思うのでありますが……」

「直線距離で数十メートルは離れていましたからね。話を盗み聞きをするだけならば、なにも問題はありません」

「「大アリだから!!」」


 なぜか、声を揃えて否定されてしまう。


「普通、数十メートルも離れていたら、相手がよほど大きな声で喋っていない限り、聞こえないぜ?」

「しかも、ここは要塞の中。複雑に入り組んで、壁と壁が交差しているため、音はすぐに途絶えてしまうのですが……」

「しかし、こう言うのもなんですが、執事は盗み聞きが得意なのです」

「そうなのかい?」

「ほら。物語などでも、よくあるでしょう? この場合、執事ではなくでメイドや家政婦ですが……そういった者が、劇中の重要な会話を聞いてしまったり、犯行現場を目撃してしまったり。ほら、よくあることです」

「「それは物語の話だから!!」」


 再び強く否定されてしまう。


「……もしかして、自分がおかしいのでしょうか?」

「ものすごくね」

「ものすごくでありますな」

「むぅ……考えを改めたいと思います」


 こうして何度も否定されていると、自分がおかしいのだな、ということはわかる。

 ただ、具体的に、どこがどのようにと言われると、なかなか自分で気づくことは難しく……


 王国に戻ったら、その辺りの相談をブリジット王女にしてみようか?


 ……なんとなくではあるが。

 やれやれ、という感じで、ブリジット王女が頭を抱える光景が思い浮かんだ。


「とにかく」


 話を元に戻す。


「兵器についての情報を手に入れることができました。大きな前進です」

「毒、っていうのを知ることができたのは、確かに大きいけどね……」

「ただ、どのようなものなのか? どこに保管されているのか? それがわからなければ、どうしようもないのでは?」

「問題ありません。だいたいの保管場所については、推理できるかと」


 毒というのは、非常にデリケートなものだ。

 成分は薬と似たところがあるため、保管の際、湿度や温度などに気を遣う必要がある。


 もしも、適当な環境で管理したら、毒の成分が変質してしまう恐れがある。


 それでも、毒は毒であることに変わりないだろうが……

 連中が望むだけの威力を保つことができるかどうか、そこは微妙だ。


「故に、毒は、湿度や温度などに左右されないところに……おそらく、食料保管庫にあるはずです。そこならば、安全に保管できるはずなので」

「……たったあれだけの会話から、そこまで推理するっていうのは、もう探偵だね」

「……アルム殿は、執事ではなくて探偵だったでありますか?」


 いや。

 俺はただの執事です。


「付け足すのならば、こちらにはフェンリルがいます。毒に限定して匂いを探してもらえば、おそらくはいけるはず」

「うん、その意見には賛成だね。なんとなく危ないものを探しておくれ、と言っても困惑させるだけだろうけど、毒って限定すれば、見つけることができるかな?」

「フェンリルの嗅覚は、軍用犬のさらに上をいくみたいでありますからね」


 この複雑な要塞内だとしても、時間をかけて探索を進めれば大丈夫なはずだ。


「そこで、提案があるんだけど」


 ふと、パルフェ王女が言う。


「ここからは別行動にしないかい?」


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