280話 待ち伏せ
要塞内を慎重に進んでいく。
フェンリルのおかげで、敵に見つかることはなくて。
罠を踏むこともない。
完璧な潜入を可能としていた。
本当に頼もしい。
そして、そんなフェンリルを完璧にテイムしてみせるパルフェ王女も頼もしい。
これならば、思い描いた通りに問題を解決できるのではないか?
そんな期待を抱くのだけど……
さすがに、それは甘い考えだったらしい。
「オンッ」
ふと、フェンリルが足を止めて、小さく吠えた。
その先に見えるのは、左右に分かれた分岐路。
フェンリルはそれぞれの通路の匂いを嗅いで。
じーっと通路の先を見て。
「オフゥ……」
今度は、やや力のない鳴き声をこぼした。
「パルフェ王女、これは?」
「うーん……まいったね。どうやら、この先、どっちの道も安全じゃないらしいぜ」
「どちらも敵がいるのでありますか?」
「んや。敵が待ち伏せているのは、右の通路。一方の左の通路は、回避しきれないほどの罠が設置されているみたいでね。どっちもアウト、っていうわけ」
「なるほど」
奥に進むにつれて警備が厳重になってきた。
安全な道が消えたとしても不思議ではない。
「リセさん、どちらの道が正解かわかりますか?」
「むー……なかなかに難しいですね。事前の予測と、こうして現場で構造を見た感じ、どちらも要塞の奥に繋がっていて、行き止まりということはないと思うのでありますが……」
歯切れの悪い返事。
敵が道を塞いでいるなどの可能性もあるから、なんとも言えないのは仕方ない。
「もしも、を考えても仕方ありませんね。キリがない。ならば、事前に得た情報に従い、行動をしましょう」
「しかし、この先は……」
「左の通路を選びましょう」
厳重に待ち伏せをされているところよりも、罠が満載の方がまだマシだ。
待ち伏せされていた場合、無力化する必要があるのだけど……
そうしたら、そこからの連絡が途絶えてしまい、巧妙に偽装をしないと俺達の潜入がバレてしまう。
いずれ、潜入はバレてしまうだろうけど……
できる限り遅らせたい。
敵に気づかれることなく。
可能であれば、敵の切り札である兵器の停止。
あるいは破壊をしたい。
それが一番の理想だ。
「おっけー。とりあえず、執事君の言う通りにしてみよっか。ダメだったとしても、罠を踏まなければいいわけで、その時は戻ればいいさ。その時はその時で、また対策を考えよう」
「そうでありますね、了解です」
二人が納得してくれて、左の通路を進む。
少し進んだところでフェンリルが足を止めた。
小さなホールに出た。
物置として使われているらしく、ホールの端に色々な物が積み重ねられている。
それらの物に隠されているせいで、ホールの隅から隅までが見えない。
この配置も考えられたものだろうな。
見えないところに罠が仕掛けられているのだろう。
「グルルル……」
「罠がいっぱいで、足の踏み場もないくらいだ、ってさ。あと二、三歩進めば罠に引っかかって、連鎖的にあちらこちらが起爆するみたい」
「物騒でありますね……」
「んー……見た感じ、ボクには罠があるなんて思えないけどねえ」
「いえ。フェンリルが言うように、たくさんの罠が仕掛けられています」
数メートルほど先の床を指差す。
「たとえば、そこ。床を踏むと、電流が流れる罠がありますね。おそらくは、同時に警報を響かせるかと。その隣は、ワイヤトラップ。古典的ではありますが、とても低い位置に仕掛けられているため、気づかずに引っ掛けてしまうことはあるかと。それと……」
二人に罠の位置を教えていく。
「「……」」
「それから次の罠は……どうしましたか? 呆けて」
「いやー……だって、ねえ」
「アルム殿は、どうして、罠の場所がわかるのでありますか……?」
「執事として当然のことですので」
もしも、主が訪れた先に罠が仕掛けられていたら?
それは大きな障害となり、同時に、主を害する可能性のある危険となる。
なればこそ、それを排除するのは執事の務めだ。
そのための能力を得ることは当然のこと。
「あっはっは。やっぱり、執事君は面白いねえ」
「むぅーん……アルム殿と話をしていると、自分の価値観がおかしくなってしまいそうでありますよ」
二人の反応が解せぬ。
「とにかく、このまま進みましょう」
「罠はどうするのでありますか?」
「これを仕掛けた人はなかなかの手練れですが、急いでいたのでしょう。一見、完璧な罠の配置に見えますが、いくつか甘く、穴がありますね。そこを突いていけば、問題なく通ることができるかと」
「フェンリルでさえ足を止める罠だらけの場所を、問題ない……かぁ」
「アルム殿が王国にいるのならば、帝国は負けて当然だったのでありますね……」
だから、その反応はいったい……?
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