28話 痛烈な一撃
「ブリジット王女!? どうしてここに!?」
「ごめんね、アルム君。ものすごーく気になったから、こっそり来ちゃった。てへ♪」
いやいやいや。
てへ、じゃないから。
「なにかあったらどうするつもりだったんですか?」
「だいじょーぶ。アルム君が助けに来てくれるって信じているから」
「……それ、ずるいです」
そう言われたらなにも言えなくなってしまうではないか。
「さてと」
ブリジット王女はそれ以上はなにも言わず、ツカツカとリシテアのところに歩いていく。
「な、なによ、あんた」
「……」
「あ、よくみれば王国の小生意気な姫じゃない。でも、どうしてこんなところに……」
「……」
「ちょっと、アルムとどういう関係なの? 答えなさいよ! このあたしが命令しているのよ!」
「……」
ブリジット王女は無言のまま、リシテアの前に移動した。
そして、にっこりと笑い……
パシィーーーンッ!!!
リシテアの頬を平手で張る。
「……へっ?」
リシテアは呆けた表情で、張られた頬に手をやる。
手の跡がぴったりと残っていた。
「っ……こ、この……!!!」
ややあって、リシテアがわなわなと怒りに震える。
自分がなにをされたのか、ようやく理解できた様子だ。
「なっ……なにすんのよ!? 今、あたしを叩いたわね!? パパにもママにも叩かれたことないのに……あたしを誰だと思っているの!? あたしは……」
「知っているよ。帝国の皇女様だよね? で、だからなに?」
ブリジット王女の表情はとても鋭い。
凍るような眼差しをリシテアに向ける。
「私ね、怒っているんだ。アルム君に酷いことをして、それだけじゃなくて、今も酷い言葉を浴びせて……アルム君はあなたのおもちゃじゃないんだよ? アルム君はアルム君なの。なんで、それがわからないかな」
「うるさいわね! 後からしゃしゃり出てきて、生意気言ってるんじゃないわよ! 私は帝国の皇女よ! そこのグズをどうしようが勝手でしょう!!!」
「ほんと、話が通じないね。困った人」
ブリジット王女は、今度はにっこりと笑う。
今、この状況で笑顔を見せるというのは、妙な迫力があって怖い。
「私、あなたのことはどうでもいいの。ただ……」
「な、なによ……?」
「今後、二度とアルム君に関わらないで」
「う、うるさいわね。そんなこと、あなたに決められる筋合いはないわ」
「あるよ」
即答だ。
そして、どこか妖艶な笑みを浮かべつつ言う。
「アルム君は私のものだからね♪」
「なっ……!?」
まさかの台詞にリシテアが絶句した。
俺も驚いた。
「私はアルム君のこと、とても大事に思っているからね」
「うわっ」
ブリジット王女が抱きついてきた。
そして、これみよがしに体を押しつけて密着する。
リシテアに見せつけているのだろうけど……
いや、その……これは恥ずかしい。
一方のリシテアはよほどショックだったらしく、愕然とした様子だ。
「あ、あたしがアルムの幼馴染で……」
「でも、追放したんだよね?」
「……う……」
「ありがとう、アルム君を追放してくれて。おかげで、私はアルム君と出会うことができた。その点だけは感謝しているよ? ふふ♪」
「で、でも……あたしは、またアルムを……」
「肝心のアルム君は、あなたを拒絶したみたいだけど?」
「そ、それは……でも、その……」
「『私の』アルム君に二度と近づかないでね、泥棒猫さん?」
「……」
最後に言葉の刃が突き刺さり、リシテアは完全に沈黙した。
その様子を見て、ブリジット王女は小さく笑う。
「今頃になって逃した魚の大きさに気がついたのかな? でも残念。私は、アルム君を絶対に離したりしないからね♪」
「えっと……」
「ね。アルム君は、ずっと私の隣にいてくれるよね?」
「……ブリジット王女が望むのなら、いつまでも」
「うん、ありがとう♪」
――――――――――
その後……
リシテアは茫然自失とした様子で、他の者に連れられて帝国に引き上げていった。
戦闘で倒した帝国兵達も引き取ってもらった。
帝国の蛮行となる証拠を押さえておいてもよかったのだけど……
それをやると、かなりの確率で王国と帝国は開戦してしまう。
それはまずい。
王国に戦争をする体力は、まだない。
なので、表向きはなにもなかったことに。
ただ、裏ではしっかりと賠償を要求する、という流れになったのだ。
王国に平和が戻り……
そして、今回の件でリシテアは責任を追求されて、帝国はさらに荒れていくことになる。
ただ、それはまた別の話。
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