274話 伝説と戦う・その1
「アォオオオオオンッ!!!」
フェンリルは、高く吠えた。
魔物とは思えないほど綺麗で。
そして、力強い雄叫びだ。
それが戦闘開始の合図なのだろう。
四肢で大地を蹴り、フェンリルが突撃してきた。
巨体のせいだろうか?
そこまで速くはないが……
「アルム殿!」
「ええ、わかっています……失礼します」
「おや?」
パルフェ王女を抱えて、大きく横に跳んだ。
リセも、同じようにフェンリルから距離を取る。
直後……
ガガガガガッ!!!
轟音を立てて、フェンリルの進路上にあった岩や大木が砕け散った。
突撃の威力に耐えることができなかったらしい。
嫌な予感は的中した。
フェンリルの動きは、思っていたよりも速くない。
しっかりと見て、それから回避することが可能だ。
ただ、その身に宿す力はとんでもない。
なにもかも飲み込んでしまう大津波のようで、触れたら最後、抗うことはできず押し流されて、そのまま巨大な力で粉々になってしまうだろう。
想像以上だ。
少し甘く見ていたかもしれないな。
「執事君、なんとかできるかい?」
「なんとかしてみせましょう」
ひとまず、パルフェ王女を安全圏に退避させた。
まあ、フェンリルを相手に、完全な安全圏というものはないだろうが……
大きく距離を取るだけで、そこそこの安全は確保できるだろう。
前へ戻り、リセと並んでフェンリルと対峙する。
「あの力は厄介でありますね……」
「必要以上に気をつけて、絶対に回避することを心がけましょう。攻撃は、本当に余裕がある時だけで」
「了解でありますよ」
リセとタイミングを合わせて、フェンリルに突撃した。
フェンリルは再び咆哮を響かせると、その場で回転して、鞭のように尾を払う。
巨人が鉄の塊を持ち、暴れまわっているかのよう。
直撃したら、即死。
かすっただけでも、重傷は免れないだろう。
俺とリセは下手に踏み込むのではなく、相手の動きを見てから、しっかりと距離をとり回避をした。
やはり動きはそれほど速くない。
対処は可能なのだけど……
「グルルル……ガァッ!」
フェンリルは尻尾を器用に使い、何度も何度も叩きつけてきた。
暴れる。
暴れる。
暴れる。
大暴走だ。
あまりにも派手に動いて、デタラメな攻撃を繰り返すものだから、タイミングを掴みづらく、なかなか接近することができない。
「本当に厄介だな……!」
ついつい舌打ちしてしまう。
ただ、諦めたわけではない。
回避行動をしつつ、さきほどフェンリルが砕いた岩の破片を拾う。
そして、タイミングを図り、拳くらいの大きさの岩の破片を投擲した。
岩の破片がフェンリルの頭部を打つ。
一瞬、怯んで……
「はぁっ!!」
その隙を見逃すことなく、リセが剣を振る。
刃が前足を切り裂いた。
「グルルルゥ……」
フェンリルは暴れるのを止めて、警戒した様子で距離を取る。
もしかしたら、傷を負わされるのは初めてかもしれない。
適当に暴れ回るのは止めたらしく、低い警戒の唸り声をあげている。
……まいったな。
こちらを侮り、雑に暴れてくれていた方が楽だった。
しかし、こうなると対処が難しくなる。
俺達がフェンリルの動きをしっかりと見て対処するように、ヤツも俺達の動きを見て、慎重に行動するようになるだろう。
さて……どうする?
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『 娘に『パパうざい!』と追放された父親ですが、辺境でも全力で親ばかをします!』
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