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273話 それは予想外だぜい……

 体長は2メートルほどだろうか?

 そこに、同じく2メートル近い尾がついている。


 銀色の体毛に覆われていて……

 それが陽の光を蓄えて、輝いているかのよう。


 四肢は太く、力強さを感じる。

 あの足で大地を支配して、自由自在に駆けるのだろう。


「見つけることはできましたが……」

「これは……すさまじい圧でありますね」


 50メートルほど離れているのだけど、それでも、フェンリルの放つプレッシャーに押しつぶされてしまいそうだ。

 ただそこにいるだけなのに、飲み込まれてしまいそう。


 それに、まだヤツは俺達に気づいていないはず。

 それなのに、これほどの圧を放っているとは……


 ただそこにいるだけで周囲を飲み込み、己の領域とする。

 なにもせずに支配下に置く。

 王者にふさわしい魔物だ。


「正直、これほどとは思いませんでしたね……パルフェ王女、どうされますか? 一度退いて、事前に考えていた策を見直すという手もありますが」

「……」

「パルフェ王女?」

「……」


 返事がない。


 もしかして、フェンリルの放つ圧に飲み込まれてしまったのだろうか?

 そんな心配をするのだけど、それが杞憂だということをすぐに知る。


「……いい」

「え?」

「いいっ、いいね! あぁ、なんていう素晴らしい姿! 見てくれよ、あのたくましい体を。あの神々しい姿を。素晴らしいの一言に尽きるね。あぁ、今すぐに研究したい。とにかく研究したい。本当にもうマジで研究したい」


 圧に飲まれていたのではなくて、単純に、感動に震えていたらしい。


 うん。

 とてもパルフェ王女らしい。


「パルフェ王女、どうされますか?」

「ん? ……ああ、うん。そうだねえ……」


 三度目の問いかけで、ようやくこちらに気づいてくれた。

 そして、すぐにこちらの質問の意図を理解してくれる。


 フェンリルの捕獲にあたり、事前に策を練り、準備を進めてきた。


 ただ、離れたところにいるフェンリルを見る限り、それらの準備では足りないような気がする。

 成功率は10パーではなくて、3パーくらいなのではないか?

 そう思うくらいに、フェンリルの放つ圧がすさまじい。


 一度、撤退することも考えた方がいいのだけど……


「このまま行こうか」

「えっ、本気でありますか?」


 リセが驚きの声をあげた。


「さすがに、あれほどとは思っていなかったのでありますよ。ここは一度、策を練り直した方がいいのでは?」

「まー……うん。そうなんだけどね。ボクも、そう思うんだけどねぇ……」


 「ただ」と間を挟んで、パルフェ王女は、てへ、と言う。


「さっき、ボクがついつい興奮して大きな声を出したせいで、向こうはもう気づいちゃったみたいだねえ」


 そのセリフで、慌ててフェンリルに視線を戻すと……


「グルルル……!」


 牙をむき出しにして威嚇するフェンリルと、真正面から目が合った。


 ……うん。

 確かに、これはもう今更……だな。


「リセさん、覚悟を決めましょう」

「で……ありますね」


 俺は拳を構えて。

 リセは剣を抜いた。


「パルフェ王女、テイムの方法は?」

「ひとまず、力を示してくれないかな? ああいう高位の魔物は、なによりもまず、自分よりも弱い相手には絶対に従わないからね。まず最初に、力を示す必要があるのさ」

「なるほど」

「強引にでいいから、押し込んで、動けなくしてくれるかい? そこから先は、ボクがやるよ」

「承りました」


 なかなかの無茶振りではあるものの……

 主の期待に応えるのが執事というもの。


 ならば、無茶を押し通してみせようではないか。

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